音に溺れる



ぱんっ、と。

乾いた破裂音がスタジオに響き、各々機材を弄っていた私たちに日向が「始めるぞ」と招集をかける。

「報告」

全員の視線が集まったのを確認して、日向は手元のスマートフォンに視線を落としたまま、淡々と告げた。

「先週発売したアルバムだけど、売れ行きは過去最高。ぼちぼち売り切れになってるとこも出てきてて、今増産依頼してるとこ」

「えっ、嘘、すごい……!」

「あと、1ヶ月前に発表した新曲。YouTubeの方で早速10万再生超えた。アナリティクスでのユーザーの反応や初動の伸びも、今までとは段違いだ」

インディーズで10万再生。アルバムの売り切れ。
今まで届かなかったような巨大な数字と反響が、私たちの音楽に確実についてきている。胸が高鳴った。自分たちの魂を削って作ってきたものが、間違いなく遠くまで届いているという確かな実感。

「だから、来月以降のプロモーションの予定を早急に組みたいんだがーーシキとマサキ、さっさと予定教えろ。催促すんのこれで3回目だぞ」

「あっ、ごめん! 今夜絶対送る!」

「わりぃ日向、俺も今日バイト終わったら送るわ」

ドラムのマサキと一緒に平謝りすると、日向は
「……まったく」と短く息を吐いた。

いつもの、少し呆れたような、でもどこか頼もしいプロデューサーの顔。

だけど。
次に彼が口を開いた時。その声は、さっきまでの業務連絡とは違う、ひどく静かで、重たい響きを帯びていた。

「ーーそれから、一番重要な報告」

スタジオの空気が、ピンと張り詰める。
日向は手元の画面から視線を上げ、私たちメンバーの顔を、一人一人順番に真っ直ぐに見据えた。

「3月21日。渋谷クアトロ、抑えられた」

渋谷、クアトロ。
キャパシティ、音響、その歴史。インディーズバンドにとって、そこはただの大きなライブハウスじゃない。紛れもない『憧れの舞台』であり、ひとつの巨大な到達点だった。

やった、と歓声を上げようとした私の声は。
しかし、続く彼の決定的な一言によって、喉の奥で完全に凍りついた。

「……多分、これが俺たちの、最終ライブになると思う」

歓喜と、絶望。
私たちの音楽が最高の場所へ辿り着いたという証明と、それが完全に終わってしまうという残酷な宣告。

真逆の感情が同時に叩きつけられ、私はただ、息を止めて彼を見つめ返すことしかできなかった。