音に溺れる



完璧な大人。全部1人で解決できてしまう、何もかも上手くこなせる天才。

ずっとそう思っていたけれどーー日向だって、私達と本当は何一つ変わらない、普通の大学生なのかもしれない。

ふっと、そんな考えが頭をよぎった。

大学生で、ほんとうはまだ少し、親にだって甘えたくて、責任なんて重たい言葉とは無縁でいたくて、大人になんてなりたくなくて。

好きな子を大事にしたいと思っていても、そのやり方がわからない。些細なことですれ違って、不必要に言葉の裏を探して自滅してしまうような、ひどく不器用で等身大の男の子。

私よりずっと前を歩いていると思っていた彼は、実は今、足元から崩れ落ちそうな絶望の中で、必死に立っているだけ、なのかもしれない。

(……ずるいなぁ)

私は。改めて自分の感情と向き合ってみるに、欲がなかったわけじゃない。

彼に対する執着を、綺麗に手放せたわけでもない。
自分が綺麗で純粋な感情でできた人間だ、なんて絶対に思わない。

嫉妬も、独占欲も、届かないもどかしさも、全部私の中にある。

側に居たいと思う。側にいることを、許して欲しいと思う。

私じゃない、誰かを想ってできた彼の痛々しい傷口でも、もし都合よく入り込めるなら、今すぐに入り込みたいとすら思っている。

それでも。

ひとつの『詩』にして、永遠に閉じ込めるとするなら。
生々しい愛憎や、泥臭い独占欲をそのまま言葉にして叩きつけるのではなく。

初めて彼の”音”を聞いた日の、あの記憶。

暗い部屋で夜明けを待っていた私を連れ出してくれた、あの波音。

あの日から始まった、星を掴むような、そんな憧れの話が良いと思ったのだ。