「……でも、どうした? 急に勉強なんてしだしたりして」
機材のコードをまとめながら、日向が不思議そうに首を傾げた。
「お前、そういうの苦手だって思ってたけど」
図星を突かれて、肩がビクッと跳ねる。
「えっ、えっとーー」
『日向が、何を考えてるか知りたいから』
喉元まで出かかったその言葉を、慌てて奥へと押さえつける。
そんな重たい本音をぶつけてしまったら、この絶妙なバランスで成り立っている距離感が、一瞬で壊れてしまう気がした。
「ほ、ほら。その方が、私も日向が作った音の意味がわかって、いい詩書けるかなって、思って」
苦し紛れに出た言い訳にしては、我ながら悪くない着地点だったと思う。
日向は少しだけ目を丸くして、私の顔をまじまじと見つめた。
「へぇ……?」
その探るような視線に耐えきれず、目を逸らす。
「な、なに。ボーカルに向上心があって偉いなって褒めてくれてもいいよ」
照れ隠しに軽口を叩くと、日向はふっと口元を緩めた。
「……別に、今のまま――感覚的なまんまで突っ走るのも、お前らしくていいと思うけどな」
静かなスタジオに、彼の低く落ち着いた声が落ちる。
その、何気ない一言。
彼にとっては、ただのバンドメンバーに対するフラットな評価に過ぎないのだろう。
けれど、「今のままのお前でいい」と彼に肯定されたことが、私には酷く甘い毒のように感じられた。
嬉しい。でも、ひどく苦しい。
「そのままの私でいい」と言ってくれる彼の視線の先には、「sound jamのボーカルとしての私」しか映っていない。それ以上でも以下でもないのだと、他でもない私自身が一番よく分かっていたからだ。
「……あっそ。じゃあ、やっぱり難しい本は似合わないからやーめた」
「極端だな。まあ、どうしても分からないところがあったらまた教える」
完全にアンプの電源が落ちたスタジオは、さっきまでの熱響が嘘みたいに静かだった。
優しくて残酷な彼の言葉が、いつまでも耳の奥で、微かなノイズみたいに響いていた。

