それでも一瞬だけ余裕のあった、5月の連休のある日。
大学の容赦ないスケジュールから解放された、ほんのわずかな空白。
今日ぐらいは、シキの話を聞いてやれるかもしれない。先月、彼女が飲み込んでしまった言葉を、掬い上げてやれるかもしれない。
……そう、思っていたのに。
練習が終わった後。
機材を片付ける俺の視線の先で、シキはサトルと肩を並べていた。彼女は時折、何かを相談するように不安げな表情を浮かべながらも、サトルの言葉に楽しそうに談笑をはじめている。
あぁ、そうか。
彼女はもう、俺に期待するのをやめたんだ。
自分のキャパシティがいっぱいで、SOSを発していた彼女を冷たく突き放したのは、俺の方だ。
頼りにならない、余裕のない、そんな男の顔色を窺うより、気さくで優しいベーシストに心を開くのは、当たり前のことだろう。
(ーーそうだよな)
コードを巻く手に、無意識に力が入る。
別に『俺じゃなきゃダメだ』なんて。
誰も、一言も言って、ないだろ。
彼女の生み出す拙い言葉を、情景を、俺なんかよりずっと近くで受け止めて、分かってやれる人間がそこにいるんだから。
それに……俺はもう、あと一年で彼女の前から消える人間だ。今さら、彼女の心に踏み込んでどうするつもりだ。
(……彼がいるんなら)
彼女の弱い部分を無条件に受け止め、守ってやれる『幼馴染』という安全な存在が、ちゃんと彼女の隣にいるのなら。
(彼女を支えることは……俺の、役割じゃない)
自嘲するように深く息を吐き、俺はシキと視線を交わらせることのないまま、手元のPCの電源をプツリと落とした。

