分厚い教科書と、乱雑に散らばったプリントの山に埋もれて、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
「……やばい」
明日の試験。今日は一睡もせずに、試験項目を脳に叩き込むつもりだったのに。
跳ね起きるようにしてスマートフォンの画面をタップすると、眩しい液晶が『01:13』という時刻を表示していた。最後に時計を見た23時から、さほど時間は経過していないことに、胸の奥で小さく安堵の息を吐く。
もう、3年。
この試験が終わったら少しは楽になる、なんていう希望に満ちた展望はとうに捨てた。ただきっと、この常軌を逸した忙しさに、少しずつ思考が麻痺するように慣れていくだけだ。
……じわじわと這い上がってくる陰鬱な気を紛らわすように、スマートフォンから音楽を鳴らす。
静かな深夜の自室を、自分の一番好きな『彼女の声』が支配していく。
ただ一つの救いは、まだ彼女たちと音楽をやれるだけの時間は、辛うじて残されていること。
目を閉じて、その掠れた透明な声に耳を澄ませる。
そう。まだ、終わってない。俺が睡眠時間さえ削れば。……明日の試験で、追試になんて引っかかったりしなければ、まだこの声を手放さずに済む。
冷え切ったコーヒーを一口飲み込み、ふと、未完成のまま止まっている新曲のデータフォルダに目をやった。
「……新曲は……シキ待ちだっけ……」
そう、5月末までに納得いく言葉が出来なかったら、いつも通り俺の『曲先』でやるって……言った気がする。
ふと、この間のスタジオ練習の帰り際を思い出す。彼女は俺に、何か相談を投げかけたそうにしていた。何かを言おうとして、結局、黙って飲み込んでしまった。
……疲労感を隠しきれていない自分の表情に、気を遣わせているんだろうと思う。
せめて演技だけでも、余裕のあるフリができたらいいのに。
「……」
響き渡る彼女の歌声とは裏腹に。
最近は、その最低限の嘘をつくことすら、難しくなってきた。

