初めて日向の作った曲を聴いた日のことを、はっきりと覚えている。
まだ、日向がどんな人間かなんて、微塵もわかっていなかった頃の話だ。
『とりあえず、デモ。お前の声のレンジに合わせて作ってみた』
そう言って、彼から初めて送られてきた無機質な音声ファイル。
薄暗い自分の部屋で、ベッドに寝転がりながらイヤホンを耳に押し込んだ私の耳に届いたのは。
ーー波音を思わせる、静かで、ひどく透き通ったアコースティックギターのイントロだった。
一見あまり感情を表に出さない、冷酷な人だと思っていた、彼からは想像もつかないほど、優しくて繊細な音の連なり。
流れてくるガイドメロディに沿って、私が鼻息混じりに、ぽつりと声を乗せて歌ってみた瞬間。
(……あぁ)
ストン、と。
胸の一番深いところに、パズルの最後のピースがはまったような気がした。
ほんとうに、私の声が一番よく響くように、私の息遣いひとつひとつまで計算し尽くして作ってくれたのだと、言葉ではなく『音』でわかった気がしたのだ。
『ーー例えば 暗い部屋で夜明けを待つ時間のように』
彼の紡いだそのメロディに導かれるように。
まるで初めからそこに用意されていたみたいに、一つの詩がふっと自然と頭に浮かんで、溶けていった。
あの日からだ。
私は、この人の作る曲がこころから好きで。
彼の紡ぐ冷たくて美しい音の世界に、ずっと恋をしていて。
そして同時に。
こんなにも優しくて脆い音楽を生み出せる彼の、こころの奥底に。
誰にも見せようとしない、その高潔なまでの孤独にーーいつか触れてみたいと、ずっとずっと、焦がれている。

