彼女と初めて出会った日のことを、はっきりと覚えている。
大学一年の初夏。高校からの親友に連れられて足を運んだ、高校生バンドが多く出演する休日のライブハウス。
地下特有の湿った空気と、安っぽい芳香剤の匂いが混ざるフロアの壁際で。俺は正直、ひどく退屈していた。
あまり上手いとは言えない荒削りな演奏に、特に心に響かないありきたりな歌詞と歌声。
「ごめん、ハズレだったな。次のバンドが知り合いだから、それが終わったら帰ろうか」
隣に立つ友人も申し訳なさそうに苦笑しながら、俺にそう提案していた。俺も異論はなかった。
そんな、文化祭の延長よろしくの『可愛い』演奏が並ぶラインナップの中。
彼女は、静かにステージへと上がった。
真っ先に目を引いたのは、鮮やかな赤い髪。
たまたまその時、俺が片手に持っていたグラスの中の、ノンアルコールのレッドアイによく似た色だった。
彼女は俯き加減でマイクスタンドの前に立ち、ゆっくりと息を吸い込んだ。
そして、最初のワンフレーズがスピーカーからフロアへ響き渡った瞬間。
(ーーあ、好きな声だ)
理屈も、システムも、それまで頭の中で並べていた冷めた批評も。
すべてがその一瞬で、跡形もなく吹き飛ばされていた。
技術がどうだとか、ピッチがどうだとか、そんなものはどうでもよかった。ただ圧倒的に、俺の渇ききった鼓膜の奥の、一番柔らかい場所を正確に穿つような、祈りのような声だった。
曲が終わる頃には。
俺はもう、取り憑かれたように、ステージの上の彼女から目が離せなくなっていた。

