それでも、普段まったく触れることのない理論の山に向き合っていると、開始わずか数十分で限界が訪れた。見慣れない専門用語と記号の羅列に、早くも脳が悲鳴を上げている。
机に広げた数冊のうちのいくつかは、先日、日向に「なんか暇つぶしに読みたいんだけど」とそれとなくお勧めの本を聞いて、彼が淀みなく挙げてきたタイトルだ。
しかし、実際に開いてみると難解にも程がある。
日本語で書かれているはずなのに、まるで別の国の言語を読んでいるみたいだ。
そもそも、この本に書かれていることを理解するための前提知識からして、私には決定的に足りていないらしい。
重い溜息をついて、分厚いハードカバーの表紙に突っ伏した。
ひんやりとした机の温度が頬に伝わってくる。
「……日向はこれ、全部頭に入れてるってこと?」
活字の海の中で迷子になりながら、あの涼しい顔をしたリーダーの姿を思い浮かべる。
医学生としての膨大な勉強をこなしながら、この音楽の専門知識まで完全に網羅して、あの緻密な曲を平然と組み立てている。想像するだけで気が遠くなりそうだった。
私と彼の間にある圧倒的な距離を、この分厚い本が物理的に突きつけてくるようだった。

