「サトルは、このバンドが終わっても……私の隣に居てくれる?」
私のその我儘で唐突な問いかけに、サトルの足がピタリと止まった。
オレンジ色の街灯の下。振り向いた彼の顔は、いつものような穏やかな笑顔ではなく、どこか泣きそうな、ひどく傷ついたような表情をしていた。
「……なぁ、シキ。それさ、すげー残酷」
絞り出すような、掠れた声だった。
「……結局ずっと、今の『気の合う幼馴染』って立場として、都合よく隣にいてくれってことだろ」
サトルは自嘲するように小さく笑い、白い息を吐き出した。
その瞳の奥には、長年溜め込んできた諦めと、それでも断ち切れない執着が揺れている。
「……俺の気持ちに答えるつもりなんて、微塵もないくせに」
彼のその痛切な響きに、私は立ち尽くした。
思えば、隣を歩く彼は、ずっと私に絶対的な『安心』を与えてくれている気がする。
物心ついた頃からずっと側にいたから。彼が私のために笑って、私を誰よりも大切に優先してくれることが『当たり前』になっていたから、甘えて、気付かなかっただけで。
(……日向に対する感情とは、違う)
日向に抱く感情みたいに、胸を掻き毟りたくなるような、どうしようもできない憧れやヒリヒリとした痛みを感じるものではない。
自分を燃やしてでもその光に触れたいと願うような、劇薬めいた恋じゃない。
けれど。
サトルのくれる愛情は、陽だまりのように暖かくてやわらかい。
この先、彼の気持ちに応えて、彼に手を引かれながら、彼の『特別』として生きていくこと。
……別に、どうしても嫌だ、とまでは思わない。
むしろ、日向という圧倒的な光を前にして居場所を失いかけ、凍えそうになっている今の私には、サトルのその温もりがひどく魅力的に、そして救いのように思えていた。
私は、サトルの痛みを帯びた目を真っ直ぐに見つめ返し、静かに首を横に振った。
「……ううん」
サトルが、怪訝そうに眉を寄せる。
私はマフラーに隠れていた口元をほんの少しだけ綻ばせて、ゆっくりと紡いだ。
「……それもアリかなって、今は思ってるよ」
「……えっ?」
サトルの口から、間抜けな声が漏れた。
彼の目がこれ以上ないほどに見開かれ、冬の夜の冷たい空気の中で、彼の中の時間が完全に停止したのが分かった。
嘘じゃない。ただの同情でも、キープでもない。
手が届かない玉座を見上げるのをやめて。私の才能も、私の弱いところも、すべてを丸ごと肯定してくれるこの優しい幼馴染に、自分のこれからを預けてみるのも。
……きっと、今の私にとっては、ひとつの正しい答えなのだ。

