「……シキちゃん、だよね?」
ふいに、水瀬さんが私の方を見て、ふわりと花が咲くように笑った。
「日向からいつも聞いてるよ。シキちゃんの歌声が、このバンドの心臓だって」
「ーーっ」
その言葉に、私は弾かれたように日向を見た。
彼は気まずそうに顔を逸らし、そっぽを向いている。
胸の奥で、手放したはずの感情の欠片が、少しだけ温かく疼いた。
隣には立てない。彼の孤独な玉座に触れることはできない。
けれど、彼の作り上げたこの音楽の箱庭の中心で、心臓として脈打つことだけは、私にしか許されていない特権なのだと。
「……はい」
私は、少しだけ泣きそうになるのを誤魔化して。
彼女の完璧な美しさに負けないように、ボーカルとしてのありったけのプライドを込めて、真っ直ぐに笑い返した。

