最初に鳴ったのは、低音だった。
ベースの弦が空気を揺らし、壁がわずかに震える。
その波の上に、ドラムのスネアが跳ね、
乾いたシンバルが光のように散った。
息を吸う。
肺の奥まで、音が満ちていく。
ステージの向こうで、日向のキーボードが鳴り始めた。
ガラスの破片みたいな高音が、静寂を切り裂く。
それだけで、会場の空気が変わるのが分かる。
熱を帯びて、ざわめきが止まり、誰もがその音に釘付けになる。
私の手が、マイクを掴む。
金属の冷たさが掌に残る。
指先の震えを抑え込むように、
ギターのストラップを肩に掛け、立ち上がる。
四拍目。
音が一斉に解き放たれた。
日向のコードが空を切る。
正樹のドラムが地を叩き、
憬のベースが心臓を掴む。
私の声はその隙間を縫って走る。
音がぶつかり、混ざり、渦を巻く。
光がフラッシュして、目の前が白く染まる。
──世界の形が、音でできていく。
体の内側で、拍が跳ね返る。
ひとつでも外せば、すべてが崩れる。
でも、怖くない。
ここには、彼の音があるから。
日向のピアノが、私の声を受け止めてくれる。
その旋律は、あまりにまっすぐで、痛いほど綺麗で。
私はほんの一瞬、歌うことを忘れかける。
でも次の瞬間、彼の音が私を引き戻す。
合図も、言葉もいらない。
ただ、音で通じ合う。
その一瞬だけ、
音は恋よりも近くて、
言葉よりも真実だった。

