嫁ぎ先は神様の住処

  シャボン玉が爆ぜる音がした。

「あっ。目を開けました」

 子供の声がして、蝶子は瞼を振るわせ、目を覚ました。見慣れない天井と、三歳くらいの童子が十三人。覗き込むようにこちらを伺っていた。

 囲まれている。蝶子は、まごつかせながら上体を起こした。くらりと目眩が襲う。

「大丈夫。蝶子」
「気分、まだ、悪い?」
「お顔が、まだ青いよ」

 見知らぬ童子たちは、蝶子の布団を握ったり、袖を引いたり、額に手をおいたりした。

「お水、飲む」
「お腹は空いてない」

 つぶらな瞳が十三人分、向けられた。男の子が七人。女の子が六人。不思議な光景に戸惑ってしまう。

「あなたたちは」
「僕、ひとに」
「僕、ふたに」
「僕、みに」

 名前を言い挙手をした。
 男子が。ひとに、ふたに、みに、よに、いつに、むつに。ななに。

 女子が。いちね、にね、さんね。よんね、ごね、ろくね。
 と名乗った。

「「「僕たち、蛇神に仕える者だよ」」」
「「「蝶子。よろしくね」」」

 声が揃い、蝶子は目をぱちくりさせた。

(仕える)

 蝶子は、ここで、ようやく、自分の置かれている立場を思い出す。

(そうだわ、わたしは、贄として花嫁に来たんだった。じゃあ、ここは?)

 見慣れない部屋を見渡す。広い和室に布団が一組。白蛇の絵柄の襖。

(立派な部屋)

 壁はところどころ銀色にキラキラと輝いて、欄間は四季折々の彫刻が施されている。主の趣味がいいのか柱には、掛け花が一輪。黄色い菊が飾られていた。

 こんな上等な和室に寝かされ、蝶子は当惑した。
 ただの贄ごときに、この様な扱いをしていただくなんて。

 手触りのいい綿の入った布団に、微かに心が弾んだ。いつも使用している、綿がぼこぼこで、ぺったんこな、古い物とは大違いだった。
 蛇神様は潔癖な方なのかもしれない。

(食べる前に傷まないように、わたしを布団に寝かしたのかしら……)

 と。ふわりと。目の前をシャボン玉が横切っていった。

 蝶子の相手に飽きてしまったのか、(あし)(ストロー)を口に含ませて、ふっ、とひとりの童子が息を吹きかける。勢いよくシャボン玉が、ふわふわと舞った。

 それを追いかけて童子たちが「待って」「こら」など言って愛らしく、はしゃいでいた。

 もう一度、小さな箱に葦の茎を浸けて、童子が天井に向かって息を吹きかける。その光景に蝶子は、ここは夢の中なのではないかと錯覚した。

 髪がはらりと肩から滑り、蝶子は髪を払い、はっと気が付く。
 いつの間に襦袢姿にされていたのか。

 慌てて寝乱れた着物の衿合わせを整える。童子が気が付き、屈託な笑顔を向けた。

「お着替えは、わたしたちが、したのよ」
「男の子にはさせてないよ」
「むむ。僕たちも、お着物、たたんだよ」

 シャボン玉を追いかけていた男子が、ピタリと体を止めて反論した。

「うるさいわね」
「蝶子、男の子は、なにも見てないから平気だよ」
「見ちゃ駄目って言われているもの」
「「「ねー」」」」

 童子たちの言葉に、誰にだろうと思いつつも、曖昧に頷いた。

 どうにも把握できない。
 それよりも、着ていた白無垢はどこだろうか。
 帯のなかには、蝶子が忍ばせている栞があった。

(わたしのお守り)

 嫁入り道具のひとつも持たずにきたが、栞のお守りだけは携行した。

 蝶子は両手を握り締め、キョロキョロした。左隅の壁に、ひっそりと衣服を掛ける家具の衣桁(いこう)に白無垢が掛けられていた。栞は、その下にある黒漆の箱に安置され、ほっとした。

(捨てられてなかった)

 どうせ、今から贄として捧げられる命。それでもこれだけは肌身離さず持っていたかった。

「蝶子、ここは、怖くないよ」

 蝶子が怯えていると思ったのか、童子の、ひとに、が声を掛けてきた。

「いい物、あげる」

 ひとには、おもむろに、着物の懐から懐紙に包まれた金平糖を取り出し、その中から大切そうに、薄桃色の一粒を摘まむ。

「はい。あげる。美味しいよ」

 にっこり笑い、ひとには蝶子に手渡した。蝶子は一驚して、目を丸くする。それを見た十三人の童子たちが

「ぼくも」
「わたしも」

 と蝶子の手に一粒の金平糖を差し出す。
 手の中は色鮮やかな金平糖が山盛りになった。思わず、蝶子は、ぷっと笑ってしまった。こんな風に笑ったのはいつぶりだろうか。
 童子たちは大きな目を輝かせた。

「「「やったー。やったー」」」
「「「蝶子が、わーらった」」」

 ぴょんぴょこと童子たちは、畳の上を飛び跳ねた。

(可愛い)

 蝶子の張り詰めていたものが抜けていく。

「いきゃっ」

 いちね、が畳の下に置かれた紙を踏んで、ずるりと滑った。

「だいじょ……」
「もうもう。誰ですか。こんなところに土地神新聞を置いたのは」

 蝶子は言葉を詰まらせ、いちねは握り拳を掲げ、頬を膨らませた。

「まったく、もう」

 ばしばしと新聞を打つ。しかし、おもむろに新聞をぺらりと開きだした。それを見た童子たちが、わらわらと集まり、円陣を囲って、新聞を読み出した。

(えっと。土地神新聞ってなんだろう)

 蝶子が首を捻っていると、さんねが教えてくれた。

「あのね。これは高天原の新聞なの。高天原のことも載ってるけど、おもに、人間界の様子が載ってるのよ」
「高天原?」
「神様が住む場所だよ」
(神様……)

 やはり、ここはもう、蝶子のいた人間界ではないのだ。
 さんねは、新聞が気になるのか、そわそわして目を落とした。

(字が読めるのかしら)

 蝶子は興味津々に童子たちを見た。
 いったい人間界のことを知って、どうするのだろうか。
 それに、どうも童子たちの言葉に違和感を覚えた。

「将軍、徳川家治死去。田沼意次老中を免ずる」
「ふぅん。次、次を開いて」
「人間界は凶作が続く」
「四年前から東北地方から冷害が相次ぐ」
「冷害があったり、干ばつがあったり人間界は忙しいねぇ」
「一揆でも起きそうだね」
「ねぇ」

胡座を掻きながら、童子は顎を擦る。蝶子は瞬きを、二、三した。
 小さな子供が、ご時世について語っている。それに、難しい漢字をすらすらと読み上げていた。

「そう言えば、三年前も山が噴火したんだったわね」
「そうだった。あそこの山神様は、怒ると手が付けられないから」
「どっかーん、ってね」

 ははっと笑う童子。その聞き捨てならない言葉に蝶子は驚愕する。いっさい顔には出さず。

(三年前の大噴火って……確か、千五百人ほどの犠牲者が出たと耳にしたけど)

 それが神様が怒っちゃった。程度のことなのだろうか。
 各地の天変地異を、完結に済ましてしまうとは。蝶子との感覚とは大きく違う。
 しかし、そんなことを考えたところで仕方がない。

(世の中がどうなろうが、わたしの生は、もうここで終わるんだ)

 目を瞑って今までのことを思い返すが、ろくなことはなかった。どこか終焉を迎えることに安堵している。

(贄としての役割が自分の価値)

 それ以上のことを考える必要はない。すっと腹の底が冷える。
 ぱん。と漂う最後のシャボン玉が、弾け消えた。

 そこまで考えていると、襖の先から、凜とした低い声が聞こえてきた。

「にーに。ねーね。誰が勝手に蝶子と会っていいと言った。それに部屋の中でシャボン玉をやるなと、何度も言っただろう」
(この声は)

 蛇神様の声に気が付き、蝶子は身を固めた。

「うわぁ」
「ばれた」

 童子たちは、あちこちと駆け回り、襖が少し開くなり、ポンと音を弾き、消散する。

「ちっ。逃げたか」

 襖が開ききり、眉をつり上げた人間姿の蛇神様が、入り込む。
 蝶子は青ざめた。

 死ぬとわかっていても、鼬妖怪の末路を思い浮かべ、全身に恐怖が這い上がった。
 蛇神様は蝶子を一瞥する。咄嗟に、蝶子は目を俯かせた。

(どうしよう。目をそむけてしまった)

 きっと、心を害されているだろう。一瞬で死なせてくれないかもしれない。
 恐怖で小刻みに震えていると

「んっ」

 と頭上から声が降ってきた。
 目の前には、蛇神様の大きな手。蝶子が好む手鞠の絵柄の懐紙。

(えっと。これは)

 蝶子が目をぱちくりさせていると、蛇神様は首をしゃくらせる。すっかり存在を忘れていた金平糖を刺していた。むっとした様子で、そっぽを向かれた。

(えっと、この懐紙で、金平糖をくるめとゆうことかしら)

 蝶子は、怖々と懐紙を受け取り、頂いた金平糖を、くるみ、そっと寝床の隅に置いた。
 顔をあげて、じっと蛇神様を見つめる。

 横顔といえど、やはり美しい。恐ろしい大蛇だとは信じがたい。
 寡黙する蛇神様に、蝶子は意を決して正座をし、三つ指をつく。

「蛇神様。わたしは贄です。どうか、村に雨を降らせていただけませんか」

 蝶子は深々と拝礼する。

(忘れてはいけない。わたしのやることは、蛇神様に身を捧げて、喰われること)

 ところが。

「よせ」

 蛇神様は蝶子の肩を掴み、顎をとらえる。ぐいっと上げさせられた。
 蝶子の唇が微かに震える。

 反論しなければ、きっと、痛めつけられることはないだろう。
 蛇神様の鋭い眼が、奥深くまで見透かすような気がした。窮屈で息苦しさを伴った。

「村の奴に、そう言えと仕込まれたか」

 冷酷に問われ、蝶子の瞳が陰った。蛇神様は手を離す。
 どうやら、癇に障ることをしてしまったようだ。

(折檻される)

 出来るなら、そうされずに死にたかった。
 否、折檻よりも酷く、蝶子を生きながら、絞め殺すかもしれない。雑巾を絞るように。そうやって死ぬのが、蝶子の価値なのだろう。
 身を引き締め、最後の瞬間を待った。
 ところが、蛇神様は歯切れが悪く

「贄などではない」

 と言った。

(贄ではない?)

 蝶子は硬直した。蛇神様は両手を軽く握り締め、抑えるように、こちらを見た。
 目が、かち合う。蝶子の心臓が、とくとくと打つ。

「嫁だ」

 蛇神様は予想外の言葉を、ぼそりと口にした。しばし、沈黙する。蝶子は首を傾いだ。

「嫁とは贄だと、村の方々が言っていました。なにが違うのでしょうか」

 蛇神様の眉間に、青筋が浮きあがる。

「違う。お前たちの言う贄は、死を意味する」
「はい。わたしは喰われるのだと」
「馬鹿な。そんなわけないだろう」

 しかし、蛇神様から嫁にと、お告げがあったと──そこまで考え、生贄として、とは発言されていないことに、思い当たる。

「ですが」
「お前は、嫁だ。俺の」

 蝶子は瞳をパチクリとさせた。

(それは喰わず、殺されないということでしょうか?)

 村のために死んでくれと、公言され、それが蝶子の使命だった。

「あの……雨は……」
「身勝手な奴らのことなど、無視しろ。なぜ、奴らの言い分を、受け入れる」

 これほどまで蛇神様が、ご立腹されているのはなぜだろうか。

『喰われることが、お前の出来る、唯一のことだ』

 そう、村長様に言われた。
 皆が、望んでいる。
 それなら、それでいい。

 特に彼らのために、身を粉にしたいわけでもない。ただ、何も考えたくもなかった。必要だと言われれば、やるだけ。

「お前は、贄のままでもいいのか」

 蛇神様に問われ、否定する気も起きない。

「はい」

 蝶子は半笑いをして、顔を伏せると、ハラリと長い髪が滑り、顔の半分を覆った。
 もう、どうでもいい。
 すべてのことは、虚無でしかない。

「お前は……」
(どうして、蛇神様が、お辛そうな、お顔をされるのだろうか)

 表情こそあまり変化はないが、蛇神様は眉をひそませ、唇を軽く噛み、しかめ面を向けていた。

「なぜ、すべてのことを諦めている」
(なぜ?)

 問われ、もしもそうならば、きっと、両親が死んでからだろうと思った。
 あんなことがあったから。

 蝶子は思い出しかけ、頭を振り、気を散らした。
 その様子を険しい表情をして、蛇神様が見下ろした。

「お前には呪いが掛かっている」

 蝶子は首を傾げる。

「呪いのせいで、お前は、お前でなくなっている」

 理解が追いつかない。

「わたしなど、居ても居なくても、変わらない存在です」

 煩わしいとでも思ったのか、蛇神様は、さらに強く眉間を寄せた。

「そう言われ続けたか。言葉の呪いが掛かっている」

 蝶子は意味を考える。
 それすら面倒だったが、ふと、思いだされるのは、奉公先の村長様の家で、奥様とご令嬢の夏子に折檻されたことだった。

『お前など、役立たずな穀潰しでしかないのに』
『蝶子なんて大層な名前つけられて……お前など、この蚕と同じ、サナギの中で煮られ、死んでいく、蝶と変わりゃしないのよ』

 棒の鞭で背を叩かれ、蝶子は養蚕場で、痛みに耐えながら、自分の置かれた立場に納得する。

『どこからか、でたらめが領主様のお耳に入ったのか、この村に美女がいるなど、それが、お前なわけがあるはずがないのに』

 ばしりと叩かれ、夏子お嬢様の言う通りなのに、なぜ、怒っているのだろうかと思った。

 その日は、確か領主様が、なにやら突然、こんな辺境の村に訪れるとされ、村をあげて歓喜していた。特にこの家の奥様とご令嬢の夏子は上機嫌でいたのに。

 蝶子を、この蚕室に閉じ込め。領主様が来られた。蚕室の窓からは、賑やかで、陽気な声が聞こえた。

 蚕室の薄暗い部屋で、かさかさと葉を食む音だけを聞いて時間が過ぎる。

 ふと、物陰から窓の外を伺うと、なぜか領主様は、がっかりしたように帰って行かれた。領主様、御一行が去ると村の人たちから笑顔が消えた。

 奥様と夏子お嬢様はお怒りになり、蚕室に訪れると、どういうわけか、折檻が始まった。

 どうやら、夏子お嬢様は、あわよくば領主様の女中にしてもらい、娶られる魂胆だったらしい。それが砕かれて蝶子に当たり散らした。

『お前のような者が幸せになんかに……させませんは。お前のはずがない。だからこうして閉じ込めたのに。ああ、憎たらしい。いい。お前は死ぬのよ。ここで。蚕のように……主に飼い殺されてね』

 ばしりと叩かれ、蝶子は頷いた。

『お前に、価値など無い』

 何度も、耳が痛くなるほど、ずっと聞いていた言葉。
 無価値な蝶子。
 羽ばたくことも出来ず、サナギの殻の中で死んでいく蚕は、蝶子その物だった。

──呪いではない。それが真。

 無用な蝶子。
 蛇神様は蝶子を見透かすように、じっと見つめてくる。澄み切った水色の瞳は、まるで清水のようだった。

「お前の瞳は、辺りを見ているようで、何も見ていない」
(なにを仰せになっているのだろうか)
「俺を見ろ」

 どういうことだろうか。

「俺だけでいい」

 見ているのに、見ていない、と仰せになる。
 しだいに焦れてなのか、白い手が伸びて来て、蝶子は咄嗟に目を瞑り、身を縮こませた。ところが待ても、殴られることは無かった。
 長い沈黙。

 蝶子は目を開く。蛇神様が蝶子の前髪にそっと触れた。瞳を泳がせ、蝶子の前髪を掻き分けた。瞳が、かち合い。息が一瞬止まる。蛇神様の紅い唇が近づいてきて──ちゅっと、額に冷たくて柔らかな感触が掠めると、微弱の爽やかな甘い芳香がして、離れていった。

「俺の名は、氷雪(ひょうせつ)。お前だけに、真名を呼ぶ権利を与える」

 いま、何が起きたのだろうか。
 蝶子は呆然とした。氷雪の眉目秀麗の顔を見て、唇を見る。
 ようやく額に口づけをされたことに気がついた。

 なぜ?
 照れよりも先に、蝶子の思考が硬直した。
 瞬きも忘れ、蝶子は失礼ながら、じっと氷雪を見つめた。

 その刺す視線に耐えられなくなったのか、氷雪は、そっぽを向いて立ち上がる。
 蝶子は、それでも氷雪を目で追った。氷雪の後頭部が見える。
 氷雪は立ち尽くしていた。と、唐突に氷雪は言った。

「あれは何だ」

 あれ、とはと思い蝶子は氷雪の目線を追った。壁を見ている。壁の隅には衣桁に掛けられている白無垢がある。衣桁は着物を掛ける道具。

 白無垢は氷雪が、嫁ぐ蝶子に贈った物。あれは何だ。と聞かれるのは可笑しなことだ。
 答えに窮していると、氷雪は白無垢の下を指さした。上質な黒漆の箱だ。そのなかには。

「栞です」
「見ればわかる」

 蝶の絵柄を施した黒漆の箱の中には、くたびれた一枚の栞が置かれていた。
 氷雪は無愛想に答え、蝶子は少し不快に感じた。

 わかっているのならば、なぜ、聞かれたのだろうか。
 どうして持っているのか? と聞いているのだろうか。

 どう答えていいかわからず、考えた末、蝶子はぽそりと、こう口にした。

「わたしの唯一の宝物です」
「……白牡丹の花びらの栞か」
「はい」

 蝶子が自分で作った花びらの栞だ。しかし、すでに赤茶けた花びらだったので、よく白牡丹だとわかったものだと、蝶子は感心した。

「そうか」

 氷雪はどう納得したのか、呟くと着物の袖を翻して部屋を出て行った。蝶子はしばらく、出て行かれた襖を見つめた。

 何がしたかったのだろうか。
 嵐のように通り過ぎ、順応が追いつかない。
 自分は贄だったはずなのに。

  蝶子はへなへなと布団にうつ伏せで倒れた。どっと疲れが押し寄せて来る。
 そこに、姿なく、ふふふっと童子たちの声が木霊した。

 悪戯なのか、どこからか、シャボン玉がふわふわと飛ぶ。それを眺めて、ほうっと息を吐く。
 酷く額が熱い。燃えるように。

(わたしは、このまま、ここにいていいのでしょうか)

 思いもよらず、神様の住み処に留まることになり、困惑した。
 いつまでも燃えるように額が熱い。

 ほんの一瞬、氷雪の唇が触れた額。熱くて。熱くて。
 蝶子は、そのまま高熱を出し、一週間ほど寝込むことになった。