蝶子は完全に意識を失った氷雪を腕に抱く。体中がひび割れ、そこから鮮血が溢れていた。そればかりか、目からも、鼻からも、血が溢れ出す。
蒼白な体で、くたりとしている氷雪に、蝶子は袖で、さっと顔の血を拭いた。
「蝶子、雪を神域へ。揺り篭につれていかないと」
ひとにが早口で言い。懐から這い出て氷雪を心配げに覗いた。
「はい」
蝶子は氷雪を担ごうとした。しかし、体格差は歴然だ。
「んんん」
蝶子は氷雪の両脇に手を差し込み、引き摺った。泥が轍の様に跡を残す。
(重たい。でも、ここには、わたししかいないんだ)
蝶子は、ぜーぜーと息を乱した。
「蝶子、頑張って」
ひとには、地面に落ちていた、枝付きの葉っぱを口に咥え、旗のように振って応援した。
啓太に追われ、随分と神域の入り口の白蛇石から離れてしまった。
戦いによって大地は荒れ、盛り上がった土を除け、倒れた大木を除け、余計に時間が掛かる。
「っつ」
唐突に、蝶子の左足の親指に激痛が襲った。見るとジワジワと真っ赤な血が溢れ出す。爪が剥がれたのだ。
「蝶子、足が」
「大丈夫です」
小雨になったが、雨は容赦無く降り注ぐ。
蝶子は歯を食いしばる。
氷雪の体は布越しでわかるほど、冷え切っていた。嫌な想像が脳裏を過ぎった。
(わたしにもっと力があれば)
心が挫けそうになり、蝶子は大きく息を吸い込んだ。
(わたしは、阿呆だ)
一端、氷雪から手を離すと、蝶子は、ばちん、と両頬を勢いよく叩いた。邪魔な草履を脱ぎ捨て、恥も外聞も捨てて、裾をあげて生足を出す。
(今、氷雪様を助けられるのは、わたししかいないんだ)
蝶子は再開した。枝で頬を切ろうが、葉で太股を切ろうが、足裏を怪我しようが、必死で引っ張った。早く。早く。と自分を急かしながら。
そこに。
「「「蝶子!」」」
頭上から童子たちの声が聞こえ、蝶子は空を仰いだ
上空から雨粒と一緒に、細長い影が、ぽと、ぽと、と落ちてくる。
「うわぁ」
子蛇姿の童子たちだった。蝶子は驚いた。頭に、肩にと子蛇たちは上手に落ち、着地した。
どうやら氷雪を迎えに来たようだ。
しかし、なぜ、空から?
蝶子が首を傾いでいると、黒い雲から、もうひとつの声が響き渡った。
「娘子、生きておるか」
雲の中から声がして蝶子は、ぎょっとする。
しばらくして、雨雲を切り裂き、大鷹が雲から出てきた。
なるほど童子たちは、雲の上を飛ぶ大鷹の背から落ちてきたのだ。
大鷹は空を滑空しながら、ばさりと大地に降り立った。ここにいるということは、童子たちが大鷹に助けを求めに行ったのだろう。
大鷹は太い足を動かし、蝶子に二歩で近づいた。
「まったく、我の自慢の羽が、またしても濡れてしまったではないか。それも、夜中に叩き起こしおって、我は鳥目だぞ。夜は、ほとんど目が利かんと言うに」
「ぶーぶー。普段、友達だって言うのですからいいでしょう。それより雪を助けて」
どうやら童子たちは、大鷹の住み処である神域に押し寄せ、寝ているところを、たたき起こしたようだ。大鷹は、くつろいでいたところに、この騒動。氷雪と別れて、数刻のこと。きっと氷雪と共にいるときも、濡れて帰ってきたのだろう。
それなのに、童子たちに急かされ、飛び立てば、またしても自慢の羽が濡れてしまい、大鷹は見ろと言わんばかりに濡れた羽を広げた。
「羽なんて、拭けばいいでしょう」
「鳥目だろうが、神様なんだから、見目はいいでしょう。ちいさなこと、言わないの」
「それより、早く、早く。雪を運んで」
童子たちは、捲し立てた。
「わかった。わかった。鷹使いの荒い奴らじゃな」
「もとはと言えば、雪を急かす、大鷹様だって悪いんだから」
「まて、我は神々の代弁をして、こやつに雨を降らすように、促しただけで」
「いいから、早く!」
子蛇たちの迫力に推され、大鷹はまだ言い足りなそうに文句を言い、氷雪を、ひょいっと嘴に加え、ぽんっと背に乗せた。
「口の減らない餓鬼どもが、まったく教育がなっとらん。あやつの神使だから、仕方ないのやも……だが、しかしだ」
「口は動かさなくてもいいから、羽を動かしてください」
「そうです」
「さあ、急いでください」
神様相手にも通常通りの童子たち。大鷹は投げやりになった。
「ああ、わかっておるわい。おい、娘子。お主も背に乗り、この阿呆神が落ちないように支えてやりなさい」
「はい」
阿呆神とは氷雪のことだろう。
蝶子は舌を噛みそうになりながら頷いた。
大鷹は蝶子に背を向けると、乗りやすいように膝を折った。童子たちは子蛇のまま蝶子の肩や頭に乗っている。蝶子は急いで大鷹の背によじ乗り、大鷹の背でぐたりとしている氷雪に覆い被さる。
「ゆくぞ」
大鷹は立ち上がると、ばさりと大きな翼を広げ、雨の降りしきる空を飛んだ。風圧が押し寄せる。雨粒が凶器のように蝶子を叩きつける。
蝶子は氷雪が落ちないように、ますます乗り上げるように、氷雪に被さった。
「面倒を掛けよるな。阿呆が。娘子を手放したくないのであれば、あれほど、さっさと逢瀬を結べと言うたのに」
大鷹は滑空しながら、呟く様な文句を零した。それは蝶子の耳に入るように言ったのだろうか、結構な声の大きさだった。
「大鷹様。前もそのようなことを言っておられました。どういうことですか」
大鷹は溜め息を吐く。
「やはり知らぬか。だから阿呆神なのだ。無理矢理にでも手込めにすれば、ややこしいことには、ならなんだはずなのに──よいか、娘子。誰も言わぬなら我が申す。娘子は並々ならぬ輩に狙われて、所有印を付けられていた。
だか、所詮は、所有物の印に過ぎぬ。印など上塗りしてしまえば消える。手っ取り早いのは、娘子と逢瀬を結ぶことだ。さすれば、所有印など消え失せる。それなのに、この阿呆神はそれをせずに、ただ、印を抑えるだけに至った。その結果、娘子を付け狙う輩に探られ、隙あらば娘子を取り戻そうと、その輩は神に楯突き、邪物が頻繁に訪れた。
そして、ここいらの土地も穢れ、土地神である雪が浄化をせねばならなくなった。すべては、娘子を付け狙う輩の影響が半分を占めている。
じゃから、初めから無理矢理でも娘子と逢瀬を結べば、娘子は神の所有物になる。神の物を、人間ごときが手出しなど出来ぬ。その輩に神の領域を探ることも叶わなかったはずなのだ。
あの様に、神が力を削がれることもなかった。土地を浄化するのにも、あれほど消耗することも無かったはずなのだ。この状態に陥ったのは、阿呆神の自業自得と言うてもいい」
「氷雪様は、どうし……」
言いかけて蝶子は押し黙った。答えなどわかりきっている。氷雪は蝶子を尊重してくれたのだ。突然、嫁にされ、氷雪の大蛇姿に倒れるほど恐れた蝶子。だから無理強いをしなかった。
氷雪の優しさに、蝶子は胸と目が熱くなるのを感じた。
「蝶子……。さっきは、ごめんね」
にゅるりと子蛇が蝶子の袖に下りてきて、袖を一回咥えてから、頭を下げた。どうやら、さんねが謝罪しているようだ。
さんねは氷雪のことを気がかりで、蝶子に氷雪のことを好きかと問うた。その理由は大鷹が語ったことが原因だろう。
蝶子がもっと早く氷雪のすべてを受け入れていれば、こんなことには、ならなかった。
さんねは項垂れる
「雪には蝶子が必要だから……雪はずっと寂しかったの。あんなことがあったから。だから蝶子の存在は」
そこで「神域に入るぞ」と大鷹が言い、急落下した。言葉は一時中断され、そのまま白蛇石へと真上から大鷹は突っ込んで行く。一閃する。
「蝶子。雪のこと知って、過去も、なにもかも、すべて知って、それで決めて」
「決める?」
「これからも、ずっと雪の側にいるか、いないか。でも、約束して、雪を嫌いにならないで、お願い」
「「「お願い」」」
光に包まれながら、一斉に童子たちは訴えた。蝶子は「はい」と答える。
「約束します」
(嫌いになんてならない。絶対に)
光が消えると、北の門の鳥居から水池に飛び出した。そのまま大鷹は水池を飛び、東の門の鳥居を潜り、屋敷の玄関に到着する。
大鷹は玄関の戸を嘴で開けるなり、荒っぽく氷雪を廊下に、ぽんと下ろす。同時に蝶子も大鷹の背から落っこちる。
「もう少し、優しくしてくださいよ」
「うるさいのぅ」
童子も落とされた衝撃で、あらぬ方に飛ばされ、壁に激突して喚いた。大鷹は一喝した。
「文句ばかり申すな。それより、こやつを運ぶぞ」
大鷹はしゅるしゅるっと小さくなり、筋肉質の腕っ節の太い難いのいい男へと変化した。髪は頭の上で丸く結いあげ、上質な着物を着て、軽々と氷雪を横抱きに抱えた。
「娘子。いつまでも廊下に転がっているな。行くぞ」
「はい」
蝶子は立ち上がると、童子たちは蝶子の足から這い上がり、頭と肩の定位置に落ち着いた。そのまま一行は、屋敷の奥の揺り篭へと向かった。
蒼白な体で、くたりとしている氷雪に、蝶子は袖で、さっと顔の血を拭いた。
「蝶子、雪を神域へ。揺り篭につれていかないと」
ひとにが早口で言い。懐から這い出て氷雪を心配げに覗いた。
「はい」
蝶子は氷雪を担ごうとした。しかし、体格差は歴然だ。
「んんん」
蝶子は氷雪の両脇に手を差し込み、引き摺った。泥が轍の様に跡を残す。
(重たい。でも、ここには、わたししかいないんだ)
蝶子は、ぜーぜーと息を乱した。
「蝶子、頑張って」
ひとには、地面に落ちていた、枝付きの葉っぱを口に咥え、旗のように振って応援した。
啓太に追われ、随分と神域の入り口の白蛇石から離れてしまった。
戦いによって大地は荒れ、盛り上がった土を除け、倒れた大木を除け、余計に時間が掛かる。
「っつ」
唐突に、蝶子の左足の親指に激痛が襲った。見るとジワジワと真っ赤な血が溢れ出す。爪が剥がれたのだ。
「蝶子、足が」
「大丈夫です」
小雨になったが、雨は容赦無く降り注ぐ。
蝶子は歯を食いしばる。
氷雪の体は布越しでわかるほど、冷え切っていた。嫌な想像が脳裏を過ぎった。
(わたしにもっと力があれば)
心が挫けそうになり、蝶子は大きく息を吸い込んだ。
(わたしは、阿呆だ)
一端、氷雪から手を離すと、蝶子は、ばちん、と両頬を勢いよく叩いた。邪魔な草履を脱ぎ捨て、恥も外聞も捨てて、裾をあげて生足を出す。
(今、氷雪様を助けられるのは、わたししかいないんだ)
蝶子は再開した。枝で頬を切ろうが、葉で太股を切ろうが、足裏を怪我しようが、必死で引っ張った。早く。早く。と自分を急かしながら。
そこに。
「「「蝶子!」」」
頭上から童子たちの声が聞こえ、蝶子は空を仰いだ
上空から雨粒と一緒に、細長い影が、ぽと、ぽと、と落ちてくる。
「うわぁ」
子蛇姿の童子たちだった。蝶子は驚いた。頭に、肩にと子蛇たちは上手に落ち、着地した。
どうやら氷雪を迎えに来たようだ。
しかし、なぜ、空から?
蝶子が首を傾いでいると、黒い雲から、もうひとつの声が響き渡った。
「娘子、生きておるか」
雲の中から声がして蝶子は、ぎょっとする。
しばらくして、雨雲を切り裂き、大鷹が雲から出てきた。
なるほど童子たちは、雲の上を飛ぶ大鷹の背から落ちてきたのだ。
大鷹は空を滑空しながら、ばさりと大地に降り立った。ここにいるということは、童子たちが大鷹に助けを求めに行ったのだろう。
大鷹は太い足を動かし、蝶子に二歩で近づいた。
「まったく、我の自慢の羽が、またしても濡れてしまったではないか。それも、夜中に叩き起こしおって、我は鳥目だぞ。夜は、ほとんど目が利かんと言うに」
「ぶーぶー。普段、友達だって言うのですからいいでしょう。それより雪を助けて」
どうやら童子たちは、大鷹の住み処である神域に押し寄せ、寝ているところを、たたき起こしたようだ。大鷹は、くつろいでいたところに、この騒動。氷雪と別れて、数刻のこと。きっと氷雪と共にいるときも、濡れて帰ってきたのだろう。
それなのに、童子たちに急かされ、飛び立てば、またしても自慢の羽が濡れてしまい、大鷹は見ろと言わんばかりに濡れた羽を広げた。
「羽なんて、拭けばいいでしょう」
「鳥目だろうが、神様なんだから、見目はいいでしょう。ちいさなこと、言わないの」
「それより、早く、早く。雪を運んで」
童子たちは、捲し立てた。
「わかった。わかった。鷹使いの荒い奴らじゃな」
「もとはと言えば、雪を急かす、大鷹様だって悪いんだから」
「まて、我は神々の代弁をして、こやつに雨を降らすように、促しただけで」
「いいから、早く!」
子蛇たちの迫力に推され、大鷹はまだ言い足りなそうに文句を言い、氷雪を、ひょいっと嘴に加え、ぽんっと背に乗せた。
「口の減らない餓鬼どもが、まったく教育がなっとらん。あやつの神使だから、仕方ないのやも……だが、しかしだ」
「口は動かさなくてもいいから、羽を動かしてください」
「そうです」
「さあ、急いでください」
神様相手にも通常通りの童子たち。大鷹は投げやりになった。
「ああ、わかっておるわい。おい、娘子。お主も背に乗り、この阿呆神が落ちないように支えてやりなさい」
「はい」
阿呆神とは氷雪のことだろう。
蝶子は舌を噛みそうになりながら頷いた。
大鷹は蝶子に背を向けると、乗りやすいように膝を折った。童子たちは子蛇のまま蝶子の肩や頭に乗っている。蝶子は急いで大鷹の背によじ乗り、大鷹の背でぐたりとしている氷雪に覆い被さる。
「ゆくぞ」
大鷹は立ち上がると、ばさりと大きな翼を広げ、雨の降りしきる空を飛んだ。風圧が押し寄せる。雨粒が凶器のように蝶子を叩きつける。
蝶子は氷雪が落ちないように、ますます乗り上げるように、氷雪に被さった。
「面倒を掛けよるな。阿呆が。娘子を手放したくないのであれば、あれほど、さっさと逢瀬を結べと言うたのに」
大鷹は滑空しながら、呟く様な文句を零した。それは蝶子の耳に入るように言ったのだろうか、結構な声の大きさだった。
「大鷹様。前もそのようなことを言っておられました。どういうことですか」
大鷹は溜め息を吐く。
「やはり知らぬか。だから阿呆神なのだ。無理矢理にでも手込めにすれば、ややこしいことには、ならなんだはずなのに──よいか、娘子。誰も言わぬなら我が申す。娘子は並々ならぬ輩に狙われて、所有印を付けられていた。
だか、所詮は、所有物の印に過ぎぬ。印など上塗りしてしまえば消える。手っ取り早いのは、娘子と逢瀬を結ぶことだ。さすれば、所有印など消え失せる。それなのに、この阿呆神はそれをせずに、ただ、印を抑えるだけに至った。その結果、娘子を付け狙う輩に探られ、隙あらば娘子を取り戻そうと、その輩は神に楯突き、邪物が頻繁に訪れた。
そして、ここいらの土地も穢れ、土地神である雪が浄化をせねばならなくなった。すべては、娘子を付け狙う輩の影響が半分を占めている。
じゃから、初めから無理矢理でも娘子と逢瀬を結べば、娘子は神の所有物になる。神の物を、人間ごときが手出しなど出来ぬ。その輩に神の領域を探ることも叶わなかったはずなのだ。
あの様に、神が力を削がれることもなかった。土地を浄化するのにも、あれほど消耗することも無かったはずなのだ。この状態に陥ったのは、阿呆神の自業自得と言うてもいい」
「氷雪様は、どうし……」
言いかけて蝶子は押し黙った。答えなどわかりきっている。氷雪は蝶子を尊重してくれたのだ。突然、嫁にされ、氷雪の大蛇姿に倒れるほど恐れた蝶子。だから無理強いをしなかった。
氷雪の優しさに、蝶子は胸と目が熱くなるのを感じた。
「蝶子……。さっきは、ごめんね」
にゅるりと子蛇が蝶子の袖に下りてきて、袖を一回咥えてから、頭を下げた。どうやら、さんねが謝罪しているようだ。
さんねは氷雪のことを気がかりで、蝶子に氷雪のことを好きかと問うた。その理由は大鷹が語ったことが原因だろう。
蝶子がもっと早く氷雪のすべてを受け入れていれば、こんなことには、ならなかった。
さんねは項垂れる
「雪には蝶子が必要だから……雪はずっと寂しかったの。あんなことがあったから。だから蝶子の存在は」
そこで「神域に入るぞ」と大鷹が言い、急落下した。言葉は一時中断され、そのまま白蛇石へと真上から大鷹は突っ込んで行く。一閃する。
「蝶子。雪のこと知って、過去も、なにもかも、すべて知って、それで決めて」
「決める?」
「これからも、ずっと雪の側にいるか、いないか。でも、約束して、雪を嫌いにならないで、お願い」
「「「お願い」」」
光に包まれながら、一斉に童子たちは訴えた。蝶子は「はい」と答える。
「約束します」
(嫌いになんてならない。絶対に)
光が消えると、北の門の鳥居から水池に飛び出した。そのまま大鷹は水池を飛び、東の門の鳥居を潜り、屋敷の玄関に到着する。
大鷹は玄関の戸を嘴で開けるなり、荒っぽく氷雪を廊下に、ぽんと下ろす。同時に蝶子も大鷹の背から落っこちる。
「もう少し、優しくしてくださいよ」
「うるさいのぅ」
童子も落とされた衝撃で、あらぬ方に飛ばされ、壁に激突して喚いた。大鷹は一喝した。
「文句ばかり申すな。それより、こやつを運ぶぞ」
大鷹はしゅるしゅるっと小さくなり、筋肉質の腕っ節の太い難いのいい男へと変化した。髪は頭の上で丸く結いあげ、上質な着物を着て、軽々と氷雪を横抱きに抱えた。
「娘子。いつまでも廊下に転がっているな。行くぞ」
「はい」
蝶子は立ち上がると、童子たちは蝶子の足から這い上がり、頭と肩の定位置に落ち着いた。そのまま一行は、屋敷の奥の揺り篭へと向かった。
