「李加を侮辱することは許さない」
重い空気を裂いた父の声は、静かで強かった。
父の目が睦美に固定された。
「李加は長い間、きみの母親に苦しめられてきた。今のきみと同じに『妹』を所有物のように扱い、傷つけ、奪えるものをすべて奪った。それでも李加はきみを引き取って実の娘のように育ててきた。きみは、その李加に感謝もできないのか」
……え、どういうこと?
私はただ、真実を語る父をみつめた。
「李加が奪ったんじゃない。――きみの母親が李加のふりをして俺を騙し、妊娠したんだ」
!
私は思わず両手で口を押えた。
息が止まりそうだ。
「どういう……、なに、それ……」
睦美は闇のような目で私たちを見ながら肩で息をした。
「言わなくてもわかるでしょう」
母が地を這うような声で言った。
「あなたは姉の子に間違いない。私にしたことを今度は私の娘に……。母子で同じことをするんだもの」
「ママ……」
私は無意識に母に縋った。
母の発した言葉ですべてのピースが嵌ったのだ。
母は故郷で近所の人たち、幼馴染み、――両親にさえも、悪者にされていた。
「ママも?」
私の目からぼろぼろ、ぼろぼろと、剥がれるように涙が出た。
これまで私が過ごした苦しい月日を、母も辿ったのだ。
私たちは、“同じ”だった……
「麦、ごめんね……。気がついてあげられなくて、ごめんね」
「マ、ママ……、つらかったね、苦しかった、ね……」
静かに抱き合って泣く私たちの横から、父が睦美に声を向けた。
「睦美、アパートを借りておいた。明日、引っ越し業者がくる」
父の声にはわずかな葛藤が乗っていた。
半分自分の血が入る娘に情がないわけがない。それでも心を鬼にすると決めたのであれば、それは紛れもなく私と母のために他ならない。
「大学を卒業するまでは親の義務を果たす。学費、生活費、必要ならカウンセリングの手配もする。だからこの家から出ていってくれ」
言い切った父は、最後の責任とでも言うように睦美から視線を逸らさなかった。

