「そういえば。」
結は再びふと思い出したように口を開く。
「ここ、どこなんですかね?」
天山神は一瞬だけ黙ると、落ち着いた声でそれに答える。
「異界だ。」
「いかい。」
「ああ。」
「それだけ?」
「それだけだ。」
何回目だろう。結は頭を抱えた。
「すみません、分かるように説明してください。」
天山神は面倒そうに空を見上げると、結を見ずに「世界と世界の狭間だ。」と、ぽつりと呟いた。結は瞬きを繰り返す。今度はどうやら続くらしい。
「現世でもなく、幽世でもない、何処にも属さない場所だ。」
「はい。」
そこまでは何となく分かった気がする。たぶん。
要するに、結が居た世界とは全く違うと言うことだ。
「迷った者や、行き場を失ったものが流れ着く。」
風が吹いた事で、結の髪が揺れた。
遠くで鳥居が軋む音がした気がして、そちらを見る。
「だから、異界。」
途中で途切れた階段。何処にも続かない橋。誰もいない道。中途半端な家。ようやく少しだけ納得する。
「なるほど?……でも、ちょっと待ってください。」
「何だ。」
周りの寂しい中途半端な景色から天山神へ。
「現世って何ですか?」
「……。」
「お前がいた世界だ。」
「なるほど。」
結はうんうん、と頷き「じゃあ幽世は?」と聞く。
「妖の世界だ。」
「あ、妖。」
現世と言うのは何となく人間の世界なのだろうとわかったが、幽世は、まさかの「妖」と来た。
「ああ。」
天山神は当然のように頷くが、結は当然のように頷けなかった。なぜなら、妖とは非現実的な上に本当に存在するかも分からないからだ。
「妖ってあの?」
「お前が何を想像しているかは分からないが、あの妖だ。」
天山神の銀灰色の目も日本人とは思えない。例えばコスプレやら外国の人なら分かる。でも、それよりも……どちらかと言えばこの世の物とは思えない方だ。
「鬼とか?」
「いる。」
「天狗とか。」
「いる。」
「河童とか。」
「いる。」
最早何でもありなのでは?結は空を見上げた。
「そうか、夢か。」
「違う。」
「じゃあ私……」
結はゆっくり天山神を見る。
「異世界転移したんですか?」
「いせかいてんせい?」
「あれ、何か違うっぽい!?」
最近友人達や世間の間で流行っていた気がする。
オタクの友人が「異世界転生できたら〜」と話していた気がする。まさかそれを自分が経験するとは思わなかったけど、天山神が否定した。
「異界へ落ちただけだ。」
「何が違うか分からないッッ!」
思わず叫ぶ。きっと、あの子が居たらこの状況を察知して適切な対応ができたであろうが、残念ながら結にそう言った専門的な知識は無い。
その上、天山神は顔色一つ変えないからその態度が少し腹立たしい。
「えっと……つまり。」
結は頑張って頭の中を整理する。
「私がいた世界は現世?」
「いいや、幾つも存在する異界の内の一つだ。」
ー……おっと?ここでは分類はそこになるのか。あれ?なら、私は、宇宙人なのかな。
「妖が住む所が、幽世で……ここが、いくつもある内の1つである、異界。」
「そうだ。」
「で、私はそこに落ちた。」
無反応。それは、肯定を意味する。結は深呼吸した。ゆっくり、とてもゆっくりと。
「……帰りたい。」
「諦めろ。」

