千回目のあなたへ 〜十七の夏、迎えにきたのは神様でした〜


 ***

 病院でおばあちゃんの顔を見て、帰り道。

 夕暮れの石畳に、古ぼけた革の財布が落ちていた。金具のすみに、八雲神社の家紋が刻まれている。

 ……あ、これ。

 京介のだ。

 いつだったか、お祖父さん譲りの大事なものなんだと、自慢げに見せてくれた財布。

 スマホで時刻を確認する。

 ——十八時四十五分。

 そういえば京介は、今夜七時、駅前で雛乃と待ち合わせだと言っていた。

 今頃財布がなくて、困っているかもしれない。わたしは財布を握りしめて、自転車にまたがった。

 ***

 町の中央へ、自転車を走らせる。駅前から続く桜並木が、夜はライトアップされている。

 ただし、久遠桜のライトアップを間近で見ることはできない。

 あの桜は棗神社の御神木で、夜間は社殿より奥への立ち入りが禁じられている。参拝客が見られるのは、駅前広場や参道からの遠景だけだ。

 だから町の子どもたちは昔から、久遠桜がよく見える場所をこっそり探したがった。雛乃が言っていた「秘密の場所」も、そのひとつだった。

 駅前の広場に着いたのは、ちょうど七時。

 待ち合わせのロータリーを見渡しても、京介も雛乃もいない。

 ……もう、どこかへ向かったあとだろうか。

 財布について京介にLINEを送ろうとした、その時。

 ぽつり、と頬に冷たいものが落ちた。

 雨。

 桜の花びらが、強くなった風に舞い上がる。

 雛乃の言っていた「秘密の場所」が、もし本当にあの橋なら——。

 私は自転車を漕ぐ足に力を込めた。