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白藤の下から戻ったあと、わたしたちは緋桜さんの屋敷へ戻った。
通されたのは、庭の久遠桜が見える客間だった。
そこで、わたしはすべてを話した。
過去へ飛んだこと。
千年前の久遠桜で、初音さんと緋桜さんに会ったこと。
まだ御子神だった暁乃さん、水継さん、宵白さんと一緒に黒鉄を封じたこと。
そして、初音さんの祈りと返し札の力で、この時代へ戻ってきたこと。
緋桜さんは、わたしの話が終わると目を伏せ、長く息を吐いた。
「……本当に、無事でよかった」
そのまま、そっと抱きしめられた。
緋桜さんの腕の中で、ようやく息ができた気がした。
すべてが元通りになったわけではない。
わたしが過去へ行ったことで、この未来は少し変わっている。
その、いちばん分かりやすい証が――。
「緋桜さま!」
障子が勢いよく開いた。
飛び込んできたのは、赤い髪の女の人だった。
朝日のような光をまとい、その場をぱっと明るくするような笑顔。
わたしは、一瞬だけ息をのむ。
暁乃さんだ。
千年前の記憶とは少し違う。
けれど、まっすぐで、あたたかくて、まぶしいところは同じだった。
「お見舞いって聞いて来たのに、思ったよりぴんぴんしてるじゃん」
「暁乃。君は相変わらず騒がしいね」
「元気そうで何よりって言ってるの」
暁乃さんはからっと笑い、それからわたしを見る。
「あんたが噂の巫女様?」
「はい。千歳朱里です」
暁乃さんは、わたしをまっすぐ見て、にっと笑った。
「よろしく、朱里」
その笑顔に、胸の奥がじんわり熱くなる。
この時代の暁乃さんは、黒鉄に魂を喰われていない。
苦しげに眠り続ける未来ではなく、ちゃんとここで笑っている。
それだけで、変わった未来を実感した。
その後ろから、水継さんも姿を見せる。
「暁乃。見舞いなら、少しは静かにしたらどうだ」
「緋桜さま、どう見ても元気じゃん」
「だからといって騒いでいい理由にはならない」
ふたりが言い合う横で、宵白さんは立ったままうとうとと船を漕いでいる。
「全員そろうと、騒がしいね」
緋桜さんが小さく笑う。
「なーに泣きそうな顔してんのよ」
柏が、呆れたように尻尾を揺らしながら入ってくる。
その金色の目は、何もかも知っているみたいに細められていた。
「柏……」
柏はふわりと尻尾を揺らし、わたしの足元へ歩み寄る。
「今日は、来客があるんでしょう?」
その言葉に、わたしは小さく頷いた。


