千回目のあなたへ 〜十七の夏、迎えにきたのは神様でした〜


 ***

 白藤の下から戻ったあと、わたしたちは緋桜さんの屋敷へ戻った。
 通されたのは、庭の久遠桜が見える客間だった。

 そこで、わたしはすべてを話した。

 過去へ飛んだこと。
 千年前の久遠桜で、初音さんと緋桜さんに会ったこと。

 まだ御子神だった暁乃さん、水継さん、宵白さんと一緒に黒鉄を封じたこと。
 そして、初音さんの祈りと返し札の力で、この時代へ戻ってきたこと。

 緋桜さんは、わたしの話が終わると目を伏せ、長く息を吐いた。

 「……本当に、無事でよかった」

 そのまま、そっと抱きしめられた。
 緋桜さんの腕の中で、ようやく息ができた気がした。

 すべてが元通りになったわけではない。

 わたしが過去へ行ったことで、この未来は少し変わっている。

 その、いちばん分かりやすい証が――。

 「緋桜さま!」

 障子が勢いよく開いた。

 飛び込んできたのは、赤い髪の女の人だった。
 朝日のような光をまとい、その場をぱっと明るくするような笑顔。

 わたしは、一瞬だけ息をのむ。

 暁乃さんだ。

 千年前の記憶とは少し違う。
 けれど、まっすぐで、あたたかくて、まぶしいところは同じだった。

 「お見舞いって聞いて来たのに、思ったよりぴんぴんしてるじゃん」
 「暁乃。君は相変わらず騒がしいね」
 「元気そうで何よりって言ってるの」

 暁乃さんはからっと笑い、それからわたしを見る。

 「あんたが噂の巫女様?」
 「はい。千歳朱里です」

 暁乃さんは、わたしをまっすぐ見て、にっと笑った。

 「よろしく、朱里」

 その笑顔に、胸の奥がじんわり熱くなる。

 この時代の暁乃さんは、黒鉄に魂を喰われていない。
 苦しげに眠り続ける未来ではなく、ちゃんとここで笑っている。

 それだけで、変わった未来を実感した。

 その後ろから、水継さんも姿を見せる。

 「暁乃。見舞いなら、少しは静かにしたらどうだ」
 「緋桜さま、どう見ても元気じゃん」
 「だからといって騒いでいい理由にはならない」

 ふたりが言い合う横で、宵白さんは立ったままうとうとと船を漕いでいる。

 「全員そろうと、騒がしいね」

 緋桜さんが小さく笑う。

 「なーに泣きそうな顔してんのよ」

 柏が、呆れたように尻尾を揺らしながら入ってくる。

 その金色の目は、何もかも知っているみたいに細められていた。

 「柏……」

 柏はふわりと尻尾を揺らし、わたしの足元へ歩み寄る。

 「今日は、来客があるんでしょう?」

 その言葉に、わたしは小さく頷いた。