千回目のあなたへ 〜十七の夏、迎えにきたのは神様でした〜



 「ね、ね、見て見て、朱里ちゃん」

 教室に着くと、雛乃が笑顔のままスマホを差し出してきた。

 最新の投稿は、桜並木でクラスの何人かと撮った写真。真ん中で雛乃が京介の腕に絡んで笑っている。

 ……が、右端のわたしは。頬から下が、写真の枠でぷつりと切れていた。

 キャプションにはこうある。

 『幼なじみショット♡ #八雲神社 #千歳 #私のヒーロー』
 「いい写真でしょ? このひな盛れてると思わない?」
 「……うん。そうだね」

 私のヒーロー。

 その言葉に、少しだけ喉の奥が詰まった。

 昔、走って転んだわたしに手を差し出してくれた京介を、わたしもそんなふうに思ったことがあったのかもしれない。

 でも、それはもう昔の話だ。

 今の京介のそばにいるのは、雛乃。この町でみんなに愛されているのも、雛乃。

 わたしは、写真の端で切れているくらいが、きっとちょうどいい。

 「あ、京介くん。今夜、久遠桜のライトアップ見にいこう?」

 まわりの女子たちが、きゃあっと声を上げる。

 「ひな、積極的〜!」
 「いーなー、夜桜デート!」

 けれど京介は、すぐには頷かなかった。

 「……お前んとこのばあちゃん、具合悪いんじゃねえの?」

 雛乃の笑顔が、一瞬だけ固まる。

 「え?」

 「朱里のばあちゃんは、お前のばあちゃんでもあるだろ。見舞いとか、行かなくていいのかよ」

 雛乃はすぐに、困ったように眉を下げる。

 「行きたいんだけどね。お母さんが、病院に大人数で押しかけたら迷惑になるからって。遠慮してるの」

 やわらかい声だった。

 「それに、朱里ちゃんが行ってあげたほうが、おばあちゃんも嬉しいと思うから。ずっと東京にいたんだし、久しぶりに顔を見せてあげられるでしょう?」

 雛乃がこちらを見て、にこりと笑う。

 「ね、朱里ちゃん?」

 「……うん」

 たしかに、おばあちゃんはわたしが行くと喜んでくれる。けれど雛乃の言葉は、どこか、やさしさの形をした押しつけみたいだった。

 雛乃は胸の前で小さく手を合わせ、もう一度京介を見上げた。

 「それにひな、すっごくいい場所知ってるの。久遠桜がいちばん綺麗に見える、秘密の場所!」

 その「秘密の場所」を、わたしは知っている。

 子どものころ、おばあちゃんがわたしと雛乃の手を引いて連れていってくれた場所。町外れの、川にかかる古い木の橋の上だ。

 ただし、こうも言っていた。

 ——橋が壊れるかもしれないから、大人と一緒のときしか行っちゃ駄目、と。

 あの橋は、いまは老朽化が進んで立入禁止のはず。

 「……」

 「朱里ちゃんとは二人乗りしてたのに、ひなとはしてくれないんだ?」

 雛乃が瞳を潤ませると、女子たちの視線が京介に集まる。

 「——分かった。行くよ」

 ため息混じりに京介が言うと、雛乃がぱっと顔を輝かせた。

 「やったあ! じゃあ、京介くん部活終わったあと、駅前ね!」

 わたしはふたりに背を向けて、教室へ歩きだした。