千回目のあなたへ 〜十七の夏、迎えにきたのは神様でした〜



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 「初音が堕神に喰われたあと、俺が久遠桜に彼女の魂を預けたことは話したよね」

 緋桜さんは、久遠桜の枝の上でぽつりと話し始めた。

 夜空には、花火が上がっている。

 さっきまであんなにきれいだった光が、今はどこか遠く感じた。

 「それからずっと、初音の魂を探し続けていた。時代が変わっても、町の形が変わっても、見失わないように」
 「時を遡って、初音さんが殺される前に戻ることはできなかったんですか?」
 「あの時代へ戻ることはできる。けれど戻れるのは、俺が初音の命を久遠桜に預けたあとの時間からだ。あのとき初音の命は尽き、魂は次の生へ移りかけていたからね」

 緋桜さんは、夜の桜へ視線を向けた。

 「一度輪廻へ渡った命は、その死をなかったことにはできない。俺が追えるのは、久遠桜に預けた魂の行方だけだ。だから俺のループはいつも、次の生を得た令和の君と、堕神が同じ時代にそろったところから始まる」

 緋桜さんは、初音さんを救いたかったのだと思う。

 殺される前に戻って、今度こそ守りたかった。

 けれど、それはできなかった。
 だから次の生まれ変わりを探した。

 それが、わたし。

 そう思った瞬間、袖の中で手紙を握る指に力がこもった。

 好きだと書いた手紙。

 さっきまで渡そうとしていたそれが、急にひどく場違いなものに思えた。

 「ようやく見つけた。今度こそ守れると思った」

 花火の光が、緋桜さんの横顔を淡く照らす。

 「でも、駄目だった。何度出会っても、堕神は君を見つけ出した。君を見つけて、守ろうとして、そのたびに奪われた」

 知らないはずの時間が、胸の奥で重く沈んでいく。

 わたしではない。
 けれど、わたしと同じ魂を持つ誰か。

 その人を、緋桜さんは何度も見つけ、何度も失ったのだという。

 「どうしても気持ちが収まらなくて、手紙を書いたこともある」

 届くかどうか分からなくても、言葉にせずにはいられない気持ち。
 それは、今のわたしと同じだった。

 好きだと書いて、渡せないままの手紙。

 こんなところだけ重なるなんて、皮肉だと思った。

 「緋桜さんが探していたのは、初音さん……なんですよね」

 言葉が、勝手にこぼれた。

 「私は、初音さんと同じ魂だから……だから、見つけてもらえただけで」
 「朱里」
 「いいんです。わかってましたから」

 花火が、夜空で大きく開く。
 その光を背に受けながら、どうにか笑おうとした。

 「私は所詮、彼女の代わりなんだって」
 「違うんだ、俺は――」
 「今は何を言われても、聞けそうにありません」

 緋桜さんの言葉を遮るように、首を振った。
 
 今、続きを聞いたら。
 自分の中に生まれたこの気持ちまで、否定してしまいそうだった。

 だから、笑おうとした。

 大丈夫だからと。
 わたしは、傷ついていないからと。

 けれど、うまくいかなかった。

 笑ったつもりなのに、涙がぼろぼろとこぼれて、頬を伝っていく。

 「降ろしてもらえますか?」

 緋桜さんの表情が、わずかに揺れる。

 しばらく、花火の音だけが響いていた。

 次の瞬間、緋桜さんの腕がわたしを支えた。
 さっきと同じように、ふわりと体が浮く。

 町の灯りが近づき。祭りのざわめきや屋台の匂いが、少しずつ戻ってくる。

 けれど、わたしの本当の気持ちだけは。
 久遠桜の枝の上に置き去りにされたままだった。