千回目のあなたへ 〜十七の夏、迎えにきたのは神様でした〜

 ***

 屋台の通りから少し外れた場所に、小さなベンチがあった。

 緋桜さんは「少し歩いてくる」と言って、自然に席を外した。
 ベンチに並んで座ると、祭りのざわめきが少し遠くなった。

 正直、気まずい。

 何から話せばいいのか分からず、膝の上で手を握っていると、隣で京介が深く頭を下げた。

 「……この前は、本当に悪かった」

 その言葉に、胸の奥が小さく揺れる。

 「俺、朱里を疑った。ちゃんと確かめもしないで」

 京介の拳が、小さく震えている。

 「助けてもらったのに、ひどいこと言った」

 冷たい水の感触が、ふいに蘇った。
 思い出したくないのに、消えない記憶に胸が苦しくなる。

 「緋桜さんから聞いた。あのとき川で俺を助けてくれたのは、朱里だったって」

 京介は、もう一度頭を下げた。

 「……本当に、ごめん。財布のことも、きっと本当に拾ってくれただけだったんだろ」

 苦しかったし、悲しかった。許せないと思ったこともある。

 でも、今の京介は。自分が間違えたことを、ちゃんと認めようとしている。

 「……いいよ」

 そう言うと、京介が驚いたように顔を上げた。

 「ちゃんと謝ってくれたから。もう、大丈夫」

 京介の表情が、くしゃりと歪む。

 「ありがとう」

 それから、何かを言いかけて、迷うように口を閉じた。
 でも、すぐにまた顔を上げる。

 「またさ。俺たち前みたいに――」
 「ごめん」

 私の言葉に、京介が少し驚いたようにこちらを見る。

 「ちゃんと謝ってくれたことは、嬉しい。でも……もう戻れない」

 前みたいな、友達以上恋人未満の幼馴染には。
 言葉にしなかった部分も、京介はしっかり受け取ってくれたように見えた。

 「わたし、今、好きな人がいるの」

 京介の目が揺れた。けれど、すぐに小さく息を吐く。

 「そっか」

 京介は少しだけ笑って、立ち上がった。

 「ちゃんと言ってくれて、ありがとう」

 その背中を見送ろうとしたとき、少し離れた場所から緋桜さんが戻ってきた。

 こちらの会話を聞いていた様子はない。
 けれど、わたしと京介の間に流れる空気が変わったことには、きっと気づいたのだと思う。

 「行こう、朱里」

 緋桜さんが、そっとわたしの手を取った。

 「はい」

 背中の向こうで、京介が小さく息を吐いた気がした。