***
屋台の通りから少し外れた場所に、小さなベンチがあった。
緋桜さんは「少し歩いてくる」と言って、自然に席を外した。
ベンチに並んで座ると、祭りのざわめきが少し遠くなった。
正直、気まずい。
何から話せばいいのか分からず、膝の上で手を握っていると、隣で京介が深く頭を下げた。
「……この前は、本当に悪かった」
その言葉に、胸の奥が小さく揺れる。
「俺、朱里を疑った。ちゃんと確かめもしないで」
京介の拳が、小さく震えている。
「助けてもらったのに、ひどいこと言った」
冷たい水の感触が、ふいに蘇った。
思い出したくないのに、消えない記憶に胸が苦しくなる。
「緋桜さんから聞いた。あのとき川で俺を助けてくれたのは、朱里だったって」
京介は、もう一度頭を下げた。
「……本当に、ごめん。財布のことも、きっと本当に拾ってくれただけだったんだろ」
苦しかったし、悲しかった。許せないと思ったこともある。
でも、今の京介は。自分が間違えたことを、ちゃんと認めようとしている。
「……いいよ」
そう言うと、京介が驚いたように顔を上げた。
「ちゃんと謝ってくれたから。もう、大丈夫」
京介の表情が、くしゃりと歪む。
「ありがとう」
それから、何かを言いかけて、迷うように口を閉じた。
でも、すぐにまた顔を上げる。
「またさ。俺たち前みたいに――」
「ごめん」
私の言葉に、京介が少し驚いたようにこちらを見る。
「ちゃんと謝ってくれたことは、嬉しい。でも……もう戻れない」
前みたいな、友達以上恋人未満の幼馴染には。
言葉にしなかった部分も、京介はしっかり受け取ってくれたように見えた。
「わたし、今、好きな人がいるの」
京介の目が揺れた。けれど、すぐに小さく息を吐く。
「そっか」
京介は少しだけ笑って、立ち上がった。
「ちゃんと言ってくれて、ありがとう」
その背中を見送ろうとしたとき、少し離れた場所から緋桜さんが戻ってきた。
こちらの会話を聞いていた様子はない。
けれど、わたしと京介の間に流れる空気が変わったことには、きっと気づいたのだと思う。
「行こう、朱里」
緋桜さんが、そっとわたしの手を取った。
「はい」
背中の向こうで、京介が小さく息を吐いた気がした。
屋台の通りから少し外れた場所に、小さなベンチがあった。
緋桜さんは「少し歩いてくる」と言って、自然に席を外した。
ベンチに並んで座ると、祭りのざわめきが少し遠くなった。
正直、気まずい。
何から話せばいいのか分からず、膝の上で手を握っていると、隣で京介が深く頭を下げた。
「……この前は、本当に悪かった」
その言葉に、胸の奥が小さく揺れる。
「俺、朱里を疑った。ちゃんと確かめもしないで」
京介の拳が、小さく震えている。
「助けてもらったのに、ひどいこと言った」
冷たい水の感触が、ふいに蘇った。
思い出したくないのに、消えない記憶に胸が苦しくなる。
「緋桜さんから聞いた。あのとき川で俺を助けてくれたのは、朱里だったって」
京介は、もう一度頭を下げた。
「……本当に、ごめん。財布のことも、きっと本当に拾ってくれただけだったんだろ」
苦しかったし、悲しかった。許せないと思ったこともある。
でも、今の京介は。自分が間違えたことを、ちゃんと認めようとしている。
「……いいよ」
そう言うと、京介が驚いたように顔を上げた。
「ちゃんと謝ってくれたから。もう、大丈夫」
京介の表情が、くしゃりと歪む。
「ありがとう」
それから、何かを言いかけて、迷うように口を閉じた。
でも、すぐにまた顔を上げる。
「またさ。俺たち前みたいに――」
「ごめん」
私の言葉に、京介が少し驚いたようにこちらを見る。
「ちゃんと謝ってくれたことは、嬉しい。でも……もう戻れない」
前みたいな、友達以上恋人未満の幼馴染には。
言葉にしなかった部分も、京介はしっかり受け取ってくれたように見えた。
「わたし、今、好きな人がいるの」
京介の目が揺れた。けれど、すぐに小さく息を吐く。
「そっか」
京介は少しだけ笑って、立ち上がった。
「ちゃんと言ってくれて、ありがとう」
その背中を見送ろうとしたとき、少し離れた場所から緋桜さんが戻ってきた。
こちらの会話を聞いていた様子はない。
けれど、わたしと京介の間に流れる空気が変わったことには、きっと気づいたのだと思う。
「行こう、朱里」
緋桜さんが、そっとわたしの手を取った。
「はい」
背中の向こうで、京介が小さく息を吐いた気がした。


