千回目のあなたへ 〜十七の夏、迎えにきたのは神様でした〜

 意識が戻ったとき、最初に見えたのは緋桜さんの顔だった。

 「朱里」

 名前を呼ばれて、はっと息を吸う。

 休憩所の畳。開け放たれた障子。外から聞こえる、祭りのざわめき。

 倒れたのは、ほんの一瞬だったらしい。

 「大丈夫?」
 「……はい」

 そう答えたものの、胸の奥にはまだ、刃が刺さった感覚が残っていた。
 あれは、ただの夢じゃない。

 「緋桜さん。私、見ました」

 緋桜さんの表情が、わずかに変わる。

 「未来の自分が。堕神に……刺されるところを」

 休憩所の空気が、静かに張り詰めた。

 「でも今の私でもなくて、たぶん、もう少し先の……」

 うまく言葉にならない。
 それでも、話さなければいけない気がした。

 「左手の薬指に、指輪があって……久遠桜の下で、堕神に刺されていました」

 緋桜さんは、しばらく何も言わなかった。

 「……そうか」

 返ってきたのは、それだけだった。
 緋桜さんの手が、そっとわたしの手に重なる。

 「話してくれてありがとう」

 それ以上、緋桜さんは何も言わなかった。
 重ねられた手の冷たさが、わたしを少しずつ休憩所へ引き戻してくれる。

 「あの……」

 何か言わなきゃと思うのに、うまく言葉が出てこない。
 そのとき、入り口の方から七姫がそっと顔を覗かせた。

 七姫も柏も、少しのあいだ席を外してくれていたらしい。
 きっと、気を遣ってくれたのだろう。

 「あかりん、大丈夫? 飲み物とか、甘いものとか。私、ほしいもの買ってくるよ」
 「ほしいもの……」

 そう聞かれて、少し考える。

 怖いものを見たばかりなのに、このまま休憩所に閉じこもっていたら、余計にそのことばかり考えてしまいそうだった。

 「……ひとつだけ、お願いしてもいいかな」