千回目のあなたへ 〜十七の夏、迎えにきたのは神様でした〜


 ***
 
 しばらくして、神社の人に案内され、境内の脇にある休憩所へ向かった。

 奉納祭はまだ続いている。

 外では町の人たちの話し声や、出店の賑わいが聞こえていた。
 さっきまで神事の場に立っていたことが、少しだけ遠い出来事みたいに感じられる。

 「朱里ちゃん、大丈夫?」

 七姫が顔を覗き込む。

 「うん。ちょっと、ほっとしただけ」
 「そりゃそうだよ。あんなの、緊張しないほうが無理だって」

 柏も、よくやったわ、といわんばかりにこちらを満足げに見上げている。

 七姫から湯呑みを受け取ろうとして、指先がかすかに震えていることに気づく。
 緊張がほどけたせいだと思った。

 けれど次の瞬間、視界の端がぐにゃりと歪む。

 「……っ」

 足元が、急に遠くなった。

 「あかりん?」

 七姫の声に返事をしようと思うのに、喉がうまく動かない。

 畳に手をつこうとして、指先が空を掴んだ。

 「朱里!」

 倒れる、と思った瞬間、誰かの腕に支えられる。

 けれど、目の前の景色はもう休憩所ではなかった。

 夜の久遠桜が、淡く光っている。
 その下に、ひとりの女の人が立っていた。

 白衣でも、緋袴でもない。
 白いワンピースを着た女の人だった。

 肩より少し下まで伸びた髪。今のわたしより少しだけ背が高く、頬の線もすっきりしている。
 少女というより、もう大人の女性だった。

 薬指には、見覚えのない細い銀の指輪。

 知らないはずなのに、それがとても大切なものだと分かった。

 その前に、顔に痣のある男が立っていた。

 ーー堕神。

 逃げなきゃ。

 そう思うのに、体は動かない。

 男の手で、黒く濡れた刃が光る。

 「ようやく、会えたな」

 次の瞬間、刃が胸を貫いた。

 女の人の唇が、かすかに動く。
 何かを呼ぼうとしたのかもしれない。

 けれど声になる前に、体が崩れ落ちた。

 白いワンピースが赤く濡れ、左手が地面を掴もうとする。指輪が、久遠桜の光を小さく弾いた。
 血は止まらず、指先まで赤く染まっていく。

 久遠桜の花びらが、血溜まりの上に落ちた。

 一枚。また一枚。

 赤い水面に、薄紅の花びらが浮かぶ。
 血溜まりの中で、指輪をつけた女性が倒れている。

 ーーこれは、未来の私だ。