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しばらくして、神社の人に案内され、境内の脇にある休憩所へ向かった。
奉納祭はまだ続いている。
外では町の人たちの話し声や、出店の賑わいが聞こえていた。
さっきまで神事の場に立っていたことが、少しだけ遠い出来事みたいに感じられる。
「朱里ちゃん、大丈夫?」
七姫が顔を覗き込む。
「うん。ちょっと、ほっとしただけ」
「そりゃそうだよ。あんなの、緊張しないほうが無理だって」
柏も、よくやったわ、といわんばかりにこちらを満足げに見上げている。
七姫から湯呑みを受け取ろうとして、指先がかすかに震えていることに気づく。
緊張がほどけたせいだと思った。
けれど次の瞬間、視界の端がぐにゃりと歪む。
「……っ」
足元が、急に遠くなった。
「あかりん?」
七姫の声に返事をしようと思うのに、喉がうまく動かない。
畳に手をつこうとして、指先が空を掴んだ。
「朱里!」
倒れる、と思った瞬間、誰かの腕に支えられる。
けれど、目の前の景色はもう休憩所ではなかった。
夜の久遠桜が、淡く光っている。
その下に、ひとりの女の人が立っていた。
白衣でも、緋袴でもない。
白いワンピースを着た女の人だった。
肩より少し下まで伸びた髪。今のわたしより少しだけ背が高く、頬の線もすっきりしている。
少女というより、もう大人の女性だった。
薬指には、見覚えのない細い銀の指輪。
知らないはずなのに、それがとても大切なものだと分かった。
その前に、顔に痣のある男が立っていた。
ーー堕神。
逃げなきゃ。
そう思うのに、体は動かない。
男の手で、黒く濡れた刃が光る。
「ようやく、会えたな」
次の瞬間、刃が胸を貫いた。
女の人の唇が、かすかに動く。
何かを呼ぼうとしたのかもしれない。
けれど声になる前に、体が崩れ落ちた。
白いワンピースが赤く濡れ、左手が地面を掴もうとする。指輪が、久遠桜の光を小さく弾いた。
血は止まらず、指先まで赤く染まっていく。
久遠桜の花びらが、血溜まりの上に落ちた。
一枚。また一枚。
赤い水面に、薄紅の花びらが浮かぶ。
血溜まりの中で、指輪をつけた女性が倒れている。
ーーこれは、未来の私だ。


