***
部屋に戻ったあと、わたしは小さな便箋を机の上に広げた。
緋桜さんへ。
そこまで書いて、筆が止まる。
川に落ちたわたしを助けてくれたこと。
行く場所のなかったわたしを、屋敷に置いてくれたこと。
久遠桜のことも、奉納祭のことも。何も知らないわたしにひとつずつ教えてくれたこと。
書きたいことは、いくつもあった。
けれど言葉にしようとすると、どれも少しずつ違う気がした。
感謝している。
それは、本当だ。
でも、ありがとうだけでは足りない。
会合のあとの、少し拗ねたような声。
久遠桜の前で祝詞を捧げる、神様としての横顔。
私を見つめる、優しい目。
近くにいるのに、遠い。
思い出すたび、胸の奥が苦しくなる。
わたしは、緋桜さんのことが。
――好き。
その二文字が頭に浮かんだ瞬間、筆先が紙の上で止まった。
文字にする前から、もう分かっていたのかもしれない。
でも、手紙を書こうとして初めて、その気持ちの名前を見つけてしまった。
怖い。
けれど、この気持ちを、なかったことにはしたくない。
明日、奉納祭が無事に終わったら。
そのときは、この手紙を渡そう。
そう決めて、わたしはもう一度、便箋に向き直った。
もう筆先は迷わなかった。
部屋に戻ったあと、わたしは小さな便箋を机の上に広げた。
緋桜さんへ。
そこまで書いて、筆が止まる。
川に落ちたわたしを助けてくれたこと。
行く場所のなかったわたしを、屋敷に置いてくれたこと。
久遠桜のことも、奉納祭のことも。何も知らないわたしにひとつずつ教えてくれたこと。
書きたいことは、いくつもあった。
けれど言葉にしようとすると、どれも少しずつ違う気がした。
感謝している。
それは、本当だ。
でも、ありがとうだけでは足りない。
会合のあとの、少し拗ねたような声。
久遠桜の前で祝詞を捧げる、神様としての横顔。
私を見つめる、優しい目。
近くにいるのに、遠い。
思い出すたび、胸の奥が苦しくなる。
わたしは、緋桜さんのことが。
――好き。
その二文字が頭に浮かんだ瞬間、筆先が紙の上で止まった。
文字にする前から、もう分かっていたのかもしれない。
でも、手紙を書こうとして初めて、その気持ちの名前を見つけてしまった。
怖い。
けれど、この気持ちを、なかったことにはしたくない。
明日、奉納祭が無事に終わったら。
そのときは、この手紙を渡そう。
そう決めて、わたしはもう一度、便箋に向き直った。
もう筆先は迷わなかった。


