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「それはもう、差し入れ一択じゃない?」
商店街の角にある小さな食堂で、七姫は箸を片手にきっぱりと言った。
木の引き戸に、古い藍色の暖簾。
店内の壁には、久遠桜の写真や奉納祭の昔のポスターが飾られている。
昼時を少し過ぎた店の中は、ほどよく静かだった。
目の前にあるのは、この町の名物だという桜えびと山菜の混ぜご飯。
小鉢には、ほんのり桜色に染まった大根の漬物と、出汁のきいた卵焼きがのっている。
湯気の立つお吸い物からは、三つ葉の香りがふわりと立ちのぼっていた。
七姫は混ぜご飯を頬張りながら、当然みたいに頷く。
「でも、緋桜さんって、何を渡したら喜ぶのか全然分からなくて」
「だから買えるものじゃなくて、あかりんが作るってところが大事なんだよ。あかりん、料理できるし」
料理が特別得意、というほどではない。
けれど、お母さんは仕事で家を空けることが多かったから、簡単なものなら小さいころから自分で作っていた。
凝った料理は無理でも、冷蔵庫にあるもので何かを用意することには慣れている。
会合には、緋桜さんの仕事の知り合いのような人たちも来るらしい。
そもそも神様って、ごはんを食べるのだろうか。
そんな疑問が一瞬浮かんだけれど、緋桜さんはわたしと一緒に食事をすることもある。
昔話や神話にも、お酒や食べ物を好む神様の話は出てくる気がするし……。
正しい作法かどうかは分からない。
でも、何もできないまま見ているだけよりは、何かひとつでも返したかった。
「ていうか、お礼って気持ちじゃん? ちゃんと考えてくれたんだなって分かれば、なんでも嬉しいって」
七姫の言葉に、胸の中で迷っていたものが少しだけ形を持つ。
緋桜さんが、少しでも休めるように。
忙しい会合の合間に、ほっとできるものを。
「……じゃあ、作ってみようかな」
箸を置いてそう言うと、立ちのぼる湯気が、ふわりと視界をやわらかくした。


