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わたしたちは、月に一度、満月の夜に会った。
里の人々の願いを伝え、神事のあとは桜の根元に並んで星を見上げたり、他愛もない話をしたり。
ときには、緋桜さまがこっそり里の外へ連れ出してくれることもあった。
山を越えた先の遠い町。夜店の灯り。はじめて見る大きな川。
わたしが知らなかった景色を、緋桜さまは言葉通りひとつずつ見せてくれた。
奥座敷に戻れば、わたしはまた人々の願いを預かるためだけの器に戻る。
けれど満月の夜だけは、緋桜さまの隣で、ただの初音でいられた。
幸せだった。
ーーあの日が、来るまでは。
初夏に近い夜。
いつものように久遠桜の根元で待っていたわたしの背後に、頭巾を深く被った男が立っていた。
声を上げる間もなく、冷たい刃がぶすりと胸を貫く。
「ふははははっ、ついに、ついにやったぞ——!」
哄笑が夜にこだまする。男が走っていくのと入れ替わるように、おおきな白豹と緋桜さまがかけてくる。
「ひおう、さま……」
「待ってろ、すぐに俺があいつを——」
犯人を追って立ち上がろうとした緋桜さまの袖を、震える指で掴む。
いかないで。
ひとりで死ぬのは、嫌だ。
「初音! しっかりするんだ、初音——!」
最期は、大好きな貴方の側にいたい。
緋桜さまの叫びを最後に、わたしの世界は真っ暗になった。
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