千回目のあなたへ 〜十七の夏、迎えにきたのは神様でした〜

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 その日の夕方、病院へ行って、おばあちゃんに奉納祭の話をした。

 先日、手術は無事に終わったばかりだ。
 まだ退院はできないけれど、経過は順調で、先生からもそう遠くないうちに家へ戻れるだろうと言われている。

 病室のベッドで体を起こしたおばあちゃんは、わたしの話を聞くなり、ぱっと顔を明るくした。

 「まあ……朱里が、今年の巫女を」
 「うん。まだ、ちゃんとできるか分からないけど」
 「できるわよ。あなたは千歳の子だもの」

 そう言うと、おばあちゃんは枕元のスマホを手に取った。

 「巫女装束をお願いしないとね。せっかくの晴れ舞台なんだから」

 おばあちゃんは、昔から付き合いのある呉服屋さんへすぐに連絡を入れてしまった。
 わたしが止める間もなく、白い小袖だの、緋袴だの、採寸だのと話が進んでいく。

 電話を切ったおばあちゃんは、わたしよりずっと楽しそうだった。

 「神事用の白小袖と緋袴を、上等な反物で仕立ててくださるそうよ。久遠桜の巫女にふさわしい、晴れの日の装いにしますって」
 「そんな立派なもの、私が着ていいのかな……」
 「もちろんよ。朱里、きっと似合うわ」

 おばあちゃんは、わたしが久遠桜の巫女を務めることを、こんなにも喜んでくれている。
 その顔を見ていたら、恥ずかしいとか、不安だとか、そういう気持ちより先に、胸の奥が少しだけ熱くなった。

 「……うん。私も、少し楽しみになってきたかも」

 巫女装束は、神事の三日前に呉服屋から久遠神社へ届けられることになった。

 「美晴(みはる)にも、見せてあげたいわねえ」
 「……うん」  

 美晴は私の母だ。孫の晴れ舞台を母である我が子にも見せたいのだろう。
 頷いたものの、すぐには連絡できる気がしなかった。

 その夜、思い切って緋桜さんに相談すると、答えはすぐに返ってきた。  
 「呼ぼう。送り迎えも、宿も、こちらで全部用意するから」
 「でも、母は体調が……」  
 「無理はさせないよ。来られるように整えておいて、当日の朝の体調で決めてもらえばいい」

 綺麗な装束を着て、せっかく神事に関わるのだから、確かにお母さんが見てくれたら嬉しい。
 それは私の本音でもあった。

 装束はまず、神社の奥にある「浄化の間」へ納め、奉納祭の朝、そこで清めの儀式を受けてから袖を通すらしい。この町に昔から続いてきた、久遠桜の巫女のためのしきたりなのだという。

 ただの手伝いだと思っていた奉納祭が、少しずつ、自分の役目として形を持ちはじめていた。