緋桜さんに教わりながら、箱の中の手紙を一枚ずつ藤棚に結んでいく。
ただ枝に結べばいいわけではない。
細長い和紙の端を少しだけ折り、白い紐を通す。
藤の枝にかけたあと、小さな輪を作って、もう一度紐をくぐらせる。
最後に余った端を、花房の流れに沿うように垂らす。
強すぎると和紙が傷み、弱すぎると風でほどけてしまう。
「こんな感じですか?」
「うん。上手だよ」
最初は輪の大きさが揃わなかったり、紐の向きを間違えたりしたけれど、何枚か結ぶうちに、少しずつ形が整ってきた。
問題は結びつける場所だ。
低い枝なら、背伸びをすればどうにか届いた。けれど、藤棚の奥のほうは少し高い。
「ん……届かないな……」
もう一度背伸びをした、そのときだった。
「朱里」
背後から呼ばれたと思った瞬間、腰に腕が回る。
「ひゃ!?」
ふわりと体が浮いた。
驚いて息を呑むと、すぐ耳元で緋桜さんの声がする。
「これで届くだろう?」
緋桜さんの腕が、後ろからわたしの腰をしっかり支えていた。
そのまま、まるで重さなんてないみたいに持ち上げられる。
ぐっと視界が高くなり、さっきまで届かなかった枝が目の前に来た。
たしかに届く。
けれど、それどころではなかった。
腰を支える腕は、思っていたよりずっとしっかりしていて、逃げ場がないくらい近い。
背中には緋桜さんの胸元が触れ、耳元でかすかな衣擦れの音がする。
手紙を結ばなきゃいけないのに、指先がうまく動かない。
どうにか紐を輪に通し、花房に沿うように端を垂らす。
最後にそっと引くと、白い手紙が藤の花房のあいだで小さく揺れた。
「あ、ありがとうございます……」
「どういたしまして」
やがて足先が玉砂利に触れ、ゆっくりと地面へ戻される。
けれど腰に残った手の感触だけが、いつまでも消えない。
緋桜さんは何も気づいていないみたいに、次の手紙を手に取った。
「次は、あっちに結ぼうか」
緋桜さんはいつも優しい。わたしを大切に扱ってくれるし、守ろうとしてくれる。
でもそれは、わたしが初音さんの生まれ変わりだからかもしれない。
千年かけて探していた魂を、今度こそ失いたくないだけなのかもしれない。
それなら、この胸の高鳴りは、どこへ置けばいいのだろう。
藤の花房が、風に揺れる。
胸の奥の小さな棘も、それに合わせるように、ちくりと痛んだ。
ただ枝に結べばいいわけではない。
細長い和紙の端を少しだけ折り、白い紐を通す。
藤の枝にかけたあと、小さな輪を作って、もう一度紐をくぐらせる。
最後に余った端を、花房の流れに沿うように垂らす。
強すぎると和紙が傷み、弱すぎると風でほどけてしまう。
「こんな感じですか?」
「うん。上手だよ」
最初は輪の大きさが揃わなかったり、紐の向きを間違えたりしたけれど、何枚か結ぶうちに、少しずつ形が整ってきた。
問題は結びつける場所だ。
低い枝なら、背伸びをすればどうにか届いた。けれど、藤棚の奥のほうは少し高い。
「ん……届かないな……」
もう一度背伸びをした、そのときだった。
「朱里」
背後から呼ばれたと思った瞬間、腰に腕が回る。
「ひゃ!?」
ふわりと体が浮いた。
驚いて息を呑むと、すぐ耳元で緋桜さんの声がする。
「これで届くだろう?」
緋桜さんの腕が、後ろからわたしの腰をしっかり支えていた。
そのまま、まるで重さなんてないみたいに持ち上げられる。
ぐっと視界が高くなり、さっきまで届かなかった枝が目の前に来た。
たしかに届く。
けれど、それどころではなかった。
腰を支える腕は、思っていたよりずっとしっかりしていて、逃げ場がないくらい近い。
背中には緋桜さんの胸元が触れ、耳元でかすかな衣擦れの音がする。
手紙を結ばなきゃいけないのに、指先がうまく動かない。
どうにか紐を輪に通し、花房に沿うように端を垂らす。
最後にそっと引くと、白い手紙が藤の花房のあいだで小さく揺れた。
「あ、ありがとうございます……」
「どういたしまして」
やがて足先が玉砂利に触れ、ゆっくりと地面へ戻される。
けれど腰に残った手の感触だけが、いつまでも消えない。
緋桜さんは何も気づいていないみたいに、次の手紙を手に取った。
「次は、あっちに結ぼうか」
緋桜さんはいつも優しい。わたしを大切に扱ってくれるし、守ろうとしてくれる。
でもそれは、わたしが初音さんの生まれ変わりだからかもしれない。
千年かけて探していた魂を、今度こそ失いたくないだけなのかもしれない。
それなら、この胸の高鳴りは、どこへ置けばいいのだろう。
藤の花房が、風に揺れる。
胸の奥の小さな棘も、それに合わせるように、ちくりと痛んだ。


