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屋敷の門をくぐると、玄関先に緋桜さんが立っていた。
「おかえり」
てくてくと柏が前を歩き、緋桜さんにすり寄っていく。
「柏がお邪魔したかな」
「いえ……いてくれて、よかったです」
そう答えると、緋桜さんは少しだけ目を細めた。
「何かあった?」
濡れた前髪の名残にも、赤くなった目元にも、きっと気づいている。
それに何より、わたしは朝着ていった制服ではなくジャージ姿だ。
何もなかった、なんて言える格好ではない。
「……」
言葉に困って、俯いてしまった。
話せない。
話したら、きっと泣いてしまうから。
緋桜さんは、しばらく黙っていた。
それから、問い詰める代わりに、ぽん、とわたしの頭に手を置く。
「俺はいつでも、朱里の味方だよ」
その言葉がやさしすぎて、余計に顔を上げられなかった。
言いたいことは、たくさんある。
雛乃にミルクティーをかけられたこと。
クラスのみんなに責められたこと。
京介が、わたしを信じてくれなかったこと。
けれど、口を開こうとすると、喉の奥で言葉が固まってしまう。
父が亡くなってから、ずっとそうだった。
弱いところを見せたら、誰かの迷惑になる。
ーー強くいなきゃ。
そう思って、ずっとやってきた。
「……ありがとうございます」
結局それしか言えず、わたしはそそくさと自分の部屋へ戻った。


