千回目のあなたへ 〜十七の夏、迎えにきたのは神様でした〜



 ***

 校舎裏の自販機の前は、朝だというのに人が少なかった。

 体育館へ続く渡り廊下の影になっていて、教室のざわめきもここまでは届かない。
 濡れた地面には、昨日の雨の名残がまだ薄く残っていた。

 雛乃は自販機の前に立ち、ぴっと短い音がして、無言で小銭を入れる。
 その背中を見ながら、わたしはようやく口を開いた。

 「お願い。みんなにちゃんと説明して」

 雛乃は返事をしなかった。

 「あの橋に京介を連れて行ったのは雛乃でしょ。欄干が折れて、京介が落ちて——」

 そこまで言った瞬間。

 ばしゃっ。

 冷たいミルクティーが、顔にかかった。
 前髪から、頬へ、制服の襟へ。液体は服に染を広げながら、ぼたぼたと落ちていく。

 「あはははははっ! やば、何その顔。ほんと、さいっこう!」

 雛乃はお腹を抱えるみたいに笑ったあと、急にすっと真顔に戻った。

 「ねえ、分かった? あんたが何を言っても、もう誰も信じないの。みんなが信じてるのは、助けたひなのこと。あんたは、財布を盗んで京介を追いかけたストーカーだもんね」
 「あ、あれは拾っただけ——」
 「そう言えば?」

 可愛らしい顔のまま、唇だけが意地悪く歪む。

 「信じてもらえるといいね」

 胸の奥が、ぎゅっと冷たくなる。

 「わたしね、あんたのこと、ずっとずーっと大っ嫌いだった!」

 雛乃は、教室では絶対に見せない顔で笑った。
 今の状況が楽しくて仕方ないみたいに、目尻をゆるめ、濡れたわたしの顔を上から下まで眺めている。

 「あんたが来るまでは、全部ひなのものだったのに。このドロボーが!!」

 爪をぎりぎり噛みながら、雛乃が一歩近づく。

 「あんたがいるだけで邪魔なの。早く消えて」

 かわいらしい目元も、柔らかな頬も、そのままなのに。
 そこに浮かんでいるのは、吐き気がするほど醜悪な表情だった。

 「この世界から」