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校舎裏の自販機の前は、朝だというのに人が少なかった。
体育館へ続く渡り廊下の影になっていて、教室のざわめきもここまでは届かない。
濡れた地面には、昨日の雨の名残がまだ薄く残っていた。
雛乃は自販機の前に立ち、ぴっと短い音がして、無言で小銭を入れる。
その背中を見ながら、わたしはようやく口を開いた。
「お願い。みんなにちゃんと説明して」
雛乃は返事をしなかった。
「あの橋に京介を連れて行ったのは雛乃でしょ。欄干が折れて、京介が落ちて——」
そこまで言った瞬間。
ばしゃっ。
冷たいミルクティーが、顔にかかった。
前髪から、頬へ、制服の襟へ。液体は服に染を広げながら、ぼたぼたと落ちていく。
「あはははははっ! やば、何その顔。ほんと、さいっこう!」
雛乃はお腹を抱えるみたいに笑ったあと、急にすっと真顔に戻った。
「ねえ、分かった? あんたが何を言っても、もう誰も信じないの。みんなが信じてるのは、助けたひなのこと。あんたは、財布を盗んで京介を追いかけたストーカーだもんね」
「あ、あれは拾っただけ——」
「そう言えば?」
可愛らしい顔のまま、唇だけが意地悪く歪む。
「信じてもらえるといいね」
胸の奥が、ぎゅっと冷たくなる。
「わたしね、あんたのこと、ずっとずーっと大っ嫌いだった!」
雛乃は、教室では絶対に見せない顔で笑った。
今の状況が楽しくて仕方ないみたいに、目尻をゆるめ、濡れたわたしの顔を上から下まで眺めている。
「あんたが来るまでは、全部ひなのものだったのに。このドロボーが!!」
爪をぎりぎり噛みながら、雛乃が一歩近づく。
「あんたがいるだけで邪魔なの。早く消えて」
かわいらしい目元も、柔らかな頬も、そのままなのに。
そこに浮かんでいるのは、吐き気がするほど醜悪な表情だった。
「この世界から」


