千回目のあなたへ 〜十七の夏、迎えにきたのは神様でした〜



 ***

 屋敷の門をくぐると、玄関先に緋桜さんが立っていた。

 「おかえり」

 てくてくと柏が前を歩き、緋桜さんにすり寄っていく。

「柏がお邪魔したかな」
「いえ……いてくれて、よかったです」

 そう答えると、緋桜さんは少しだけ目を細めた。

「何かあった?」

 濡れた前髪の名残にも、赤くなった目元にも、きっと気づいている。

 それに何より、わたしは朝着ていった制服ではなくジャージ姿だ。
 何もなかった、なんて言える格好ではない。

「……」

 言葉に困って、俯いてしまった。

 話せない。
 話したら、きっと泣いてしまうから。

 緋桜さんは、しばらく黙っていた。

 それから、問い詰める代わりに、ぽん、とわたしの頭に手を置く。

「俺はいつでも、朱里の味方だよ」

 その言葉がやさしすぎて、余計に顔を上げられなかった。

 言いたいことは、たくさんある。

 雛乃にミルクティーをかけられたこと。
 クラスのみんなに責められたこと。
 京介が、わたしを信じてくれなかったこと。

 けれど、口を開こうとすると、喉の奥で言葉が固まってしまう。

 父が亡くなってから、ずっとそうだった。

 弱いところを見せたら、誰かの迷惑になる。

 ーー強くいなきゃ。

 そう思って、ずっとやってきた。

「……ありがとうございます」

 結局それしか言えず、わたしはそそくさと自分の部屋へ戻った。