千回目のあなたへ 〜十七の夏、迎えにきたのは神様でした〜



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 放課後、校門を出る前にスマホを取り出した。

 緋桜さんには、学校が終わる時間に迎えに来ると言われていた。けれど今は、会いたくなかった。

 こんな惨めな顔を見られたら、その場で泣いてしまいそうだったから。

 なにより、優しくしてくれる彼に、これ以上心配をかけたくなかった。

 指先で、画面を打つ。

 緋桜さんと連絡先を交換したのは昨日のことだ。
 スマホは持っていたものの、電話機能くらいしか使っていなかったらしく、今後の連絡手段としてアプリを入れてもらった。

 だから今、緋桜さんの友だち一覧には、たぶんわたししかいない。

『今日は、ひとりで歩いて帰ろうと思います。すみません』

 少し迷ってから送信すると、すぐに既読がついた。

『分かった。気をつけて』

 それだけだった。

 もう少し何か言われるかと思っていたので、正直、少しだけ拍子抜けする。

 スマホをしまい、桜並木の道へ足を向けた。

 雨上がりの道には、まだ水たまりが残っている。
 初夏なのに散らない桜が、濡れたアスファルトの上で淡く光っていた。

 そのとき、足元で白いものが動いた。

「……柏?」

 白猫が、何食わぬ顔でそこにいた。

 艶やかな毛並み。尾と耳の先の桜色。額に浮かぶ薄紅の桜紋。

「緋桜さんに言われて来たの?」

 柏はちらりとこちらを見上げ、にゃあん、と鳴いただけだった。

 外にいるから、猫のふりをしているつもりなのかもしれない。

 桜並木を、柏と並んで歩く。

 何も聞かれない。
 何も言わなくていい。

 ただ隣を歩いてくれる存在がいるだけで、思っていたよりずっと呼吸がしやすくなった。

 今日は、ずっとひとりだったから。

「ありがとうね」

 小さく呟くと、柏はぴたりと足を止めた。
 こちらを見上げ、ぱちりと片目をつむる。

 「こちらこそ」

 それだけ言うと、柏は何事もなかったように屋敷の方へ歩き出した。

 優雅に揺れる尻尾を追いかけるように、わたしも小走りでその後に続いた。