トイレで、濡れた髪と制服をできるだけ拭いた。
ミルクティーの染みは、ハンカチで押さえてもなかなか落ちない。
甘ったるい匂いが襟元に残っていて、このまま教室に戻ることはできなかった。
仕方なく、体育用のジャージに着替える。
鏡の中には、赤い目をした自分が映っていた。
濡れた前髪が額に張りつき、顔色も悪い。ほんの数日前より、ずいぶん疲れて見えた。
——どうして、こんなことに。
答えなんて出ないまま、授業のチャイムだけが鳴る。
教室に戻ってからも、視線はあちこちから刺さってきた。
授業中、机の端に置いていた教科書が、いつの間にか床に落ちていた。
拾おうと屈んだ瞬間、近くの女子が机の上のペンケースをさっと自分の鞄へしまう。
「こわ。盗まれないようにしなきゃ」
誰かの声に、周りがくすくすと笑った。
何か言い返そうとして、やめた。
言えば言うほど、きっとまた面白がられる。そう思うと、喉の奥で言葉が固まってしまう。
休み時間に廊下へ出ると、すれ違いざまに肩を強くぶつけられた。
「どけよ、ドロボー」
耳元で囁いたのは、雛乃だった。
振り返ったときには、もういつもの柔らかな顔に戻っている。
周りの女子たちと楽しそうに笑うその姿は、さっきの声が嘘だったみたいに可愛らしい。
廊下の向こうから、京介が歩いてきた。
一瞬だけ、目が合いそうになる。
けれど、その前に京介が視線を逸らした。
見なかったことにするみたいに。
その仕草だけで、胸の奥が冷えていく。
一日が、ひどく長かった。


