千回目のあなたへ 〜十七の夏、迎えにきたのは神様でした〜


 トイレで、濡れた髪と制服をできるだけ拭いた。

 ミルクティーの染みは、ハンカチで押さえてもなかなか落ちない。
 甘ったるい匂いが襟元に残っていて、このまま教室に戻ることはできなかった。

 仕方なく、体育用のジャージに着替える。

 鏡の中には、赤い目をした自分が映っていた。
 濡れた前髪が額に張りつき、顔色も悪い。ほんの数日前より、ずいぶん疲れて見えた。

 ——どうして、こんなことに。

 答えなんて出ないまま、授業のチャイムだけが鳴る。

 教室に戻ってからも、視線はあちこちから刺さってきた。

 授業中、机の端に置いていた教科書が、いつの間にか床に落ちていた。
 拾おうと屈んだ瞬間、近くの女子が机の上のペンケースをさっと自分の鞄へしまう。

 「こわ。盗まれないようにしなきゃ」

 誰かの声に、周りがくすくすと笑った。

 何か言い返そうとして、やめた。

 言えば言うほど、きっとまた面白がられる。そう思うと、喉の奥で言葉が固まってしまう。

 休み時間に廊下へ出ると、すれ違いざまに肩を強くぶつけられた。

 「どけよ、ドロボー」

 耳元で囁いたのは、雛乃だった。

 振り返ったときには、もういつもの柔らかな顔に戻っている。
 周りの女子たちと楽しそうに笑うその姿は、さっきの声が嘘だったみたいに可愛らしい。

 廊下の向こうから、京介が歩いてきた。

 一瞬だけ、目が合いそうになる。
 けれど、その前に京介が視線を逸らした。

 見なかったことにするみたいに。

 その仕草だけで、胸の奥が冷えていく。

 一日が、ひどく長かった。