千回目のあなたへ 〜十七の夏、迎えにきたのは神様でした〜

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 こうして、桜小路家での生活が始まった。
 とはいえ、すぐに普段通りとはいかない。

 荷物を移し、おばあちゃんに事情を説明し、母ともビデオ電話をした。
 体はもう平気だったけれど、緋桜さんが「大事を取ったほうがいい」と言うので、学校は二日ほど休むことになった。

 「こ、このワンピース……ブランドものでは……?」

 用意された部屋の箪笥を開けた瞬間、思わず声が裏返った。

 「朱里に似合うと思って」
 「こ、こんなにいいもの、受け取れません……」
 「気にしなくていい」

 昨日まで着ていた制服も、教科書も、家の鍵も、全部そのままなのに。
 目を覚ませば、桜小路家の広い部屋にいて、廊下には式神たちが静かに行き交っている。

 食事は信じられないくらい丁寧に用意され、窓の外にはいつも、久遠桜の淡い光が揺れていた。
 あまりにも急に世界が変わって、最初は、何が現実なのか分からなかった。

 けれど、おばあちゃんの病室に緋桜さんを連れていくと、おばあちゃんは涙ぐむほど喜んでくれた。
 緋桜さんは、おばあちゃんに対しても驚くほど優しい。
 背筋を伸ばし、治療のことも、手術のことも、こちらで責任を持つと話してくれた。

 母の生活についても、すぐに手を回してくれた。
 東京で無理に働き続けなくてもいいように、当面の生活費を保証する。
 落ち着いたらこちらへ来て、おばあちゃんのそばでゆっくり過ごせばいいと。

 電話の向こうで、母は何度も言葉を詰まらせていた。

 「……ありがとう、ございます」

 その声を聞いて、初めて少しだけ肩の力が抜けた。

 わたしひとりでは、どうにもできなかったことばかりだった。
 それを緋桜さんは、当たり前のように整えていく。

 神様というより、少し強引で、少し過保護な、頼もしすぎる婚約者。
 まだ、その言葉には慣れないけれど。

 学校へ行く朝、門の前には黒い車が停まっていた。
 普通の高校生が乗るには、あまりにも目立つ車だ。

 「学校の近くまで送る」
 「あの、できれば少し離れたところで……」

 緋桜さんは少し考えてから、頷いた。

 「分かった」
 「ありがとうございます」
 「行ってらっしゃい」
 「い、行ってきます」

 わたしが桜小路緋桜の婚約者になったことや、桜小路家の屋敷で暮らしていることはまだ、学校の人には誰にも言っていない。
 もちろん、雛乃にも。