千回目のあなたへ 〜十七の夏、迎えにきたのは神様でした〜

 「いまの俺は、桜小路家の当主として人の姿を取っている。けれど本来は——あの久遠桜に宿る神だ」
 「神様って、ファンタジーの……?」
 「今はそう思っている人も多いけど。ものや場所、ときに人の願いが積もるところには、神が宿ることがある。俺は久遠桜の神として、この町を見守ってきた」

 緋桜は、少しだけ困ったように笑う。

 「でも、さすがに『俺は神です』なんて言って町で暮らすわけにはいかないからね。人の世では、桜小路家の当主という“設定”で通しているんだ」
 「じゃあ、このお屋敷の人たちは……?」
 「ほとんどは俺の式神だよ。人の姿で、屋敷のことを手伝ってもらっている。君の着替えも、彼女たちに頼んだ」
 「そ、そうだったんですね……」

 ほっとしていいのかは分からない。

 けれど、緋桜さん本人に着替えさせられたわけではないと分かって、少しだけ肩の力が抜けた。

 緋桜さんの話によると、実際の商いごとや町の運営は、分家や桜小路家の関係者が中心になって支えているらしい。

 緋桜さんの本来の役目は、久遠桜と、この町を包む結界を守ることにあるのだという。

 「ただ、令和のいまは信仰が薄れて、神の力も昔ほど強くはない。神は、人の祈りや畏れによって力を保つものだからね」

 緋桜の紅い瞳が、わたしを見つめる。

 「そして、神にはそれぞれ眷属がいる」

 緋桜が、足元の白猫に視線を落とす。

 「この子は(かしわ)。俺の眷属だ」
 「ええ、よろしくね、朱里ちゃん」

 白猫の柏が、人の言葉で優雅に挨拶した。
 や……やっぱり喋った!?

 「柏の声が聞こえるのは、君に代々続く巫女の血が流れているからだ」
 「巫女の血……」
 「君は久遠桜に仕える、千歳家本家の巫女の血を引いているだろう」
 「アタシの声が聞こえているんでしょう?」

 どれも信じがたい話なのに、目の前では現に猫が喋っている。

 「いきなり、神とか、巫女とか言われても……」
 「そうだよね。じゃあまずは、俺が人ならざるものと信じてもらうところから始めようか」

 緋桜は、ふっと立ち上がった。