すらりとした長身。白い肌に、涼やかな目元。
整いすぎた顔立ちは、どこか現実味がない。白に近い銀の髪は少しふわふわしていて、毛先だけが桃色だ。
全体的に柔らかい印象だけれど、こちらを見つめる紅い瞳だけは、不思議なほど熱を帯びていた。
「傷も浅そうでよかった」
言われて、自分の腕に視線を落とす。
手首や肘に、白い布が巻かれていた。膝にも、薄く薬の匂いが残っている。
川に流されたときにできた傷を、手当てしてくれたらしい。
「あの……あなたは」
「俺は、桜小路緋桜。この屋敷の当主だ」
「ひ、緋桜さま!?」
思わず声が裏返った。
この町の人たちが信じている、久遠桜の神様。
いや……違う。
神様が本当にいるわけがない。
だとしたら、目の前の人は、桜の神と同じ名を持つという、桜小路家の当主の方だろう。
久遠桜を管理してきた桜小路家は、町でいちばん古い家だという。
町に一つきりの病院も、駅前のスーパーも、唯一のホテルも、看板にはぜんぶ桜小路グループの名前がある。
その当主が、どうしてわたしの前にいるのだろう。
「……ここは?」
「俺の屋敷だ。久遠桜のすぐ奥にある」
この辺りは、おばあちゃんと何度も来たことがある。
けれど、境内のさらに奥にこんな立派な日本家屋があるなんて、聞いたこともなかった。
「あの、京介は——京介は、無事ですか」
「あの男の子なら大丈夫だ。岸まで引き上げられて、いまは町の病院にいる。命に別状はない」
ふっと、肩から力が抜けた。
「ありがとう、ございます。緋桜さまが……助けてくれたんですよね。私のことも」
ぺこりと頭を下げると、緋桜は少し困ったように笑った。
「そんなに畏まらないで。俺のことは、緋桜でいい」
それから、当たり前のように続ける。
「君は、朱里だね?」
なぜ、私の名前を知っているのだろう。
「あの、失礼を承知でお伺いしますが。わたしたち、どこかでお会いしたことがありましたか。その……正直、記憶になく」
訊いた瞬間、緋桜はほんの少しだけ寂しそうな顔をした。
「ううん」
短く答えてから、緋桜は言葉を選ぶように、わたしを見る。
「君の名前を知っているのは……ずっと、探していたから」
「私を……?」
そのとき、足元から楽しげな声が響いた。
「まったく。緋桜、あんたって本当に言葉が足りないのよ」
「柏」
「見てごらんなさい、彼女のあのお顔。ぽかんとして、まるで間抜けじゃない!」
「こら。彼女に失礼な物言いは、俺が許さないよ」
「事実でしょ」
……は?
恐る恐る声の方向を見る。
座布団の脇で香箱を組んでいたのは、あの白猫だった。
「あの、すみません!いったん整理させてください。混乱しすぎて、わたしには、いま、猫が喋ったように聞こえたんですけど——」
「ああ。やっぱり、眷属の声が聞こえるんだね」
緋桜は、どこか満足そうに目を細めた。
「順を追って話そうか」
緋桜は湯呑みを置き直し、まっすぐわたしを見た。


