窓の外では、激しい雨が世界を白く煙らせている。
だけど、この薄暗い美術室の中で、僕たちの間には、確かに温かくて眩しい光が灯っていた。
葵の言葉が、僕の心の中に残っていた過去の澱(おり)を、優しく洗い流していくのが分かった。
僕は、膝の上に置いていたカメラを、ゆっくりと持ち上げた。
「春野さん」
「……あ、また春野さんって呼んだ。葵、って呼んでって言ったのに」
葵が不満そうに頬を膨らませる。その仕草があまりにも愛おしくて、僕は小さく笑った。
「葵。……一枚、撮らせて」
「うん。今度は、最高の笑顔でね」
ファインダーを覗く。
雨の日の美術室。窓辺に立つ彼女の背景には、紫陽花のような深い青の世界。
その中心で、春野葵は、僕だけの特別な太陽のように、優しく、柔らかく微笑んでいた。
レンズの奥の彼女を見つめながら、僕は自分の胸の鼓動が、雨の音よりもずっと大きく響いているのに気づいていた。
もう、誤魔化しようがなかった。
僕は、この雨の季節の真ん中で、どうしようもないくらい彼女に恋をしていた。
——カシャ。
静かな駆動音とともに切り取られたその一枚は、僕たちの心の距離が、決定的に交わった瞬間の証明だった。
