あの冬の日のメッセージから、四年という月日が流れた。
僕は写真の専門学校を卒業し、都内の小さな写真スタジオでカメラマンのアシスタントとして働き始めていた。
毎日が先輩からの叱責と、重い機材の運搬、そして深夜に及ぶ現像作業で塗りつぶされ、自分の写真を撮る余裕なんてほとんどない、泥臭い日々だ。
だけど、僕のリュックの底には、あの擦り切れたスケッチブックがいつもお守りのように入っていた。
それを見るたびに、僕はあの夏の美術室の匂いを思い出し、折れそうな心を奮い立たせてきた。
五月のある晴れた休日。
僕は久しぶりの休みを利用して、銀座の片隅にある小さな画廊へと向かっていた。
街頭の看板に、見覚えのある、だけどあの頃よりずっと力強くなった文字が躍っている。
『春野 葵 初個展 ——色彩のプロローグ——』
自動ドアをくぐると、外の喧騒が嘘のように静まり返った空間が広がっていた。白い壁の一枚一枚に、圧倒的なエネルギーを持った絵画が飾られている。
赤、青、紫……彼女が「世界中から捕まえてきた」という美しい色彩が、惜しげもなくキャンバスの上で躍動していた。
進むにつれて、僕の胸の鼓動が早くなっていく。
そして、画廊の最奥。最も広い壁面に飾られた、一枚の大きな油絵の前で、僕は完全に足を止めた。
それは、四年前、彼女が新幹線の中で見ないでと言った、あのスケッチブックの最後のページの絵だった。
一面のひまわり畑。
