さよなら、僕のひまわり



 その瞬間、僕の胸の中で眠っていた「何か」が、熱い塊となって弾けた。

 僕はかじかむ手でポケットからスマートフォンを取り出し、メッセージアプリを開いた。

 九月に別れて以来、お互いの夢の邪魔をしないようにと、一度も連絡を取っていなかった。

 タイムラインに並ぶ彼女のアイコンは、夏の日のひまわりの写真のままだ。

 僕は、先ほど撮影したばかりの、冬の真ん中で咲く黄色い花の写真を添付した。

 そして、たった一言だけ、メッセージを添えた。

 『東京は寒いですか。こっちでも、小さなひまわりを見つけたよ。僕も、僕の場所で頑張っています』

 送信ボタンを押すと、画面の向こうへとメッセージが吸い込まれていった。

 返事は期待していなかった。

 彼女は今、特待生としての厳しいカリキュラムの真っ最中のはずだ。

 だけど、スマホをポケットにしまおうとしたその瞬間、画面が震えた。

 通知欄に表示されたのは、待ち焦がれていた彼女の名前。

 慌ててトーク画面を開くと、そこには既読の文字と、一枚の画像が届いていた。

 それは、彼女が東京の狭いアトリエで描いている途中の、大きなキャンバスの写真だった。

 まだ背景の青しか塗られていないその画面の片隅に、点、と置かれたばかりの、鮮烈な黄色の絵の具が写っている。

 言葉は添えられていなかった。

 だけど、それだけで十分だった。

 (繋がっている。僕たちは、離れていても、同じ光を探しているんだ)

 不器用な僕たちの、言葉にしない遠距離の会話。

 見上げる冬の空は相変わらず高くて冷たかったけれど、僕の胸の奥には、春の野原のような温かい風が、確かに吹き抜けていた。