葵が上り列車に乗って去ってから、僕たちの暮らす街には、本格的な秋、そして凍てつくような冬が相次いで訪れた。
彼女のいない美術室には、もう絵の具の独特な匂いは残っていなかった。
放課後の静寂だけが机の上に積もっていく。
僕はといえば、進路希望調査票にしっかりと『写真専門学校進学』と書き込み、担任に提出していた。
もう、自分の進むべき道に迷いはなかった。
葵が命がけで僕の目を描いてくれたのだ。僕も僕の目で、世界を切り取るプロになると決めた。
冬が深まった十二月のある日、僕はカメラを首から下げて、あの八月に二人で訪れたひまわり畑のある丘へと向かった。
当然、そこにひまわりは一輪も咲いていない。
かつて僕たちの視界を圧倒的な黄色で埋め尽くしていた斜面は、今や茶色く乾いた土と、冷たい霜に覆われている。風は容赦なく吹きつけ、手袋をしていない指先が感覚を失っていく。
「寒いな……」
誰もいない冬の丘で、僕はカメラを構えた。
ファインダーを覗いても、そこにあるのはモノクロームに近い、うら寂しい冬の景色だけだ。
かつてこの場所で、白いワンピースの裾を揺らして笑っていた彼女の姿を重ねようとしても、冷たい現実の景色がそれを拒むように横たわっている。
(やっぱり、冬のひまわり畑なんて、撮るものなんて何もないか……)
諦めてカメラを下ろそうとした、その時だった。
