さよなら、僕のひまわり


 八月の上旬。太陽は容赦なく照りつけ、アスファルトからは陽炎が立ち上っていた。

 「蓮くん、あっち! あっちにすごい場所があるんだって!」

 ローカル線に揺られて一時間。
 
 駅からさらに歩くこと十五分。
 
 汗をかきながら坂道を登りきった僕たちの視界に、圧倒的な『黄色』が飛び込んできた。

 丘の斜面を埋め尽くす、何万本ものひまわり。

 それはまるで、地上の太陽たちが一斉に空を見上げて歓声をあげているかのような、息を呑むほど鮮烈な景色だった。

 「わあ……っ! すごい、蓮くん、本当にひまわり畑だ……!」

 葵は麦わら帽子を抑えながら、子供のように目を輝かせてひまわりの海へと駆けていく。
 白いワンピースの裾が、緑の葉と黄色の花弁の間をひらひらと舞った。

 今回の小旅行は、葵の特待生試験の提出作品となる「絵のモチーフ」を探すためのロケハンだった。

 「葵、危ないからそんなに走るなよ!」

 僕は重いカメラバッグを揺らしながら、彼女の後を追った。

 ひまわりの背丈は僕たちの身長ほどもあり、一歩足を踏み入れると、まるで黄色い迷路に迷い込んだような錯覚に陥る。

 「蓮くん、こっちこっち!」

 ひまわりの隙間から、葵がひょっこりと顔を出した。麦わら帽子の影から覗く瞳が、夏の光を反射してきらきらと輝いている。

 僕は思わず、息を止めてカメラを構えた。

 ファインダーの中の彼女は、背景のひまわりたちさえも霞んでしまうほどに眩しかった。彼女自身が、光そのものだった。