刻の輪廻で君を守る

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 明日を投票に控える土曜日。

 レイチェルは、流石に忙しくなったクリフトン教授の手伝いに行っていた。

 俺も手伝いを申し出たのだが、レイチェルが任されたのは教授の仕事の手伝い、つまり判事の仕事なもんで俺は却って邪魔しかねない。

 せめて終わるまでレイチェルを待っていようと中心街をぶらつきながら、来月の生誕祭への出費に頭を悩ませていたのだが。

 時計塔の文字盤は13:10

 と、前から歩いてきたのはセレスさんだ。

 何やら、後ろからワルターさんが追いかけてきてるが?

「あら、奇遇ね。アッシュ君。暇してるのかしら? 良ければ今からお茶でも……」
「ダメです! お嬢様、まだまだ書類作成が終わっていません! 特使の仕事ですよ」

 あのワルターさんが強めの口調でセレスさんに問い詰める。

 顔を背けて、チッ、と舌を出すセレスさん。

 ……どーやら、書類仕事が嫌で逃げ出して来たな。

「せっかく、アッシュ君と会ったんだから、ワルターも一緒に……」
「いけません! ちゃんと仕事をしてください、セレスお嬢様」

 俺をダシに逃げるつもりのセレスさんを何とか連れ戻そうとする。

「セレスさん、ちゃんと仕事はした方が良いですよ」
「……司書の仕事をやる気がないアッシュ君には言われたく無いセリフね」

 と言われましても……。

 と、後ろからトントンと肩を叩かれる。

 ?

 振り向くと、そこに居たのは学生さん? 知らない人だが……

「えーと、アシュレイさんですよね? これをサファナ判事が渡してくれ、と言われまして」

 何やら持っていた手紙を渡される。

 あー、そういや、教授のとこの学生さんだったか。セレスさん達の自己紹介中に一度、来たな。

 レイチェルから手紙とか一体?

 中を開けると、そんなに大した事ではないが、要は思ってた以上に忙しくて全く手が離せないので荷物運びだけでいいから手伝いに来て欲しい、とのこと。13:30までに、と。更に、

“絶対にセレスさん達は連れてこないでね”

 などと、何故か今の状況を既に予見しているかのような注意書きまで添えて。

「フフーン、私を名指しなのねぇ〜。『絶対』なんて言われちゃうと余計に気になっちゃうわね〜」

 横から覗き見ていたセレスさんがニヤリとする。

 いや、サボる口実が欲しいだけだろ。

「レイチェルがこう言ってるんで遠慮して下さいよ、セレスさん」

「どうしよっかなあ〜。途中まではついてっても良いんでしょ?」

「お嬢様!」

 フンフン鼻歌を歌いつつ、俺の後をついてくるセレスさんに俺とワルターさんは頭を抱えるのだった。

 無理だ、この人の行動は止められん。




「セレスさんは廊下で控えてて下さいよ。連れて来たって知られたらまた俺が怒られるんで」

 主にレイチェルに。

 裁判所奥の倉庫。そこへの廊下を歩きながらセレスさんに釘を刺す。

「はいはい、チラッと覗くだけにするわよ」

 本当に興味があるんではなく、仕事をサボる言い訳にしてるだけだろーからなー。

 その時だった。

「アッシュ、ここに来ちゃダメ! これは罠だわ」

 中から聞こえるレイチェルの叫び声。

 なんだ!?




「ワルター!」

 セレスさんが呼ぶ前に、俺は先に扉を押し開け部屋に飛び込んでいた。

 部屋の中には黒マントの影が(うごめ)いていた。その無数の目が一斉に俺を睨む。

「死ね! アシュレイ・ノートン」

 リーダー格らしいフードを深く被った男が冷たく言い放つ。

 手には奇妙な形状の刃物——長い針のような剣、刺突剣を握りしめていた。

「レイチェルを放せ!」

 声を張り上げる俺の前に、レイチェルが走り寄る。

「ダメェッ!」

 そして、俺の身体を押し出して……




 ザクッ




 レイチェルの胸からその刃は生えていた。



 なんだ、アレは? おい、なんだ、コレは!?



 レイチェルの口から血がほとばしる。その背後から突き刺した刺突剣の切先が、レイチェルが床に倒れると同時に抜かれ、辺りを血の海に染めていく。



「アッシュ君!」
「クッ! セレスお嬢様! 数が……多すぎます!」

 いつの間に、これだけの黒マントが居たのだろう。部屋の中、もう一つの入り口からだけでは無い。俺たちがやってきた背後の廊下からも次から次へとヤツらがやってくる。

 いや、そんなことはどうでもいい。

「レイチェル! レイチェル! レイチェルッ!!」

 血の海の中に沈むレイチェルを抱きしめる。

 馬鹿な、嘘だ。なんで、なんでこんな事に……

「アッシュ……良かった……私も、アッシュを守れた……」

 その口元から、その胸を血塗れにしつつレイチェルは俺を見てフッと微笑む。

「アッシュ、逃げて……」

 レイチェル……。

 いやだ。嫌だ。イヤだ!!

 腕の中の温かさが消えていく……。

「レイチェルーッ!!」

 俺はもう答えてくれないレイチェルの身体を抱いて、ただ慟哭(どうこく)するのだった。


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