拗らせスターと嘘な恋

 先輩からの誘いを断ってしまったその日、漫研の部室にやって来たメロちゃんは言いづらそうに口を開いた。

「あのさぁ」

 いつも溌剌としている彼女の曇った顔を見た僕は、良くない話が待ち受けていることを瞬時に悟る。

「秋の文化祭でBL的な劇やるって話だったじゃん? ウチそっちも好きだから、演劇部の知り合いに聞いたんだけど、そんな話ないってさ」
「え?」
「和風恋愛ものの予定らしいけど、メインは男女っぽい」
「ってことは、役作りっていうのは……」

 メロちゃんはパックジュースをズッと啜った後、「嘘っぽいね」と呟く。

 ――なんで? 先輩に揶揄われた? それとも何かの罰ゲーム?

 頭が真っ白になり、眩暈がする。

「あっ、でもさ。先輩はイッチーのことが好きで、ただきっかけが欲しかったのかもよ?」
「それはないよ。だって、話したことすらなかったんだから」

 僕は乾いた唇で答える。

 よく考えれば、揶揄いや罰ゲームのためにわざわざ長期間の恋人ごっこをするなんてあり得ないのに、メロちゃんの言葉を信じるだけの自信が僕にはなかった。

 とにかく動揺し、震える手で先輩にメッセージを打つ。

『今日、体調悪いんで部活休んで先帰ります』

 既読はつかない。
 先輩が気づくのは、部活が終わる頃だろう。

「イッチー、なんかごめん」
「ううん。話してくれてありがとう。今日はもう帰るね」

 メロちゃんは何も悪くない。むしろ話してくれて良かった。
 僕はそろそろ夢から覚めて、現実を見るべきだ。

「先輩とちゃんと話すんだよ!」

 帰り際、メロちゃんにそう言われたけど、今は一人になって考える時間が欲しい。

『ごめん。気づくの遅れた。大丈夫?』
『はい。大丈夫です。風邪かもしれないので、朝も一人で行きます。しばらく会うの控えましょう』

 先輩にも一方的な返事を打って、僕はスマホの電源をオフにした。