拗らせスターと嘘な恋

 朝は学校の最寄駅で琉偉先輩と待ち合わせている。

 最初は周りの視線が気になったけど、今はそれよりも先輩と会えることが楽しみで仕方ない。

「おはようございます」
「おはよ」

 先輩は朝日が霞むような、キラキラ眩しい笑顔で挨拶をしてくれた。そしてすぐ、僕の変化に気づいて褒めてくれる。

「前髪切ったんだ。似合ってる」
「ありがとうございます。少しでも先輩の隣を歩いて恥ずかしくない人間になりたいと思って。思い切って切りました」

 先輩は「気にしなくていいのに」と苦笑いをした後、僕の肩に手を置き、溜息をつく。

「やっぱ変でした?」
「違う、似合ってるよ。似合ってて最高に可愛いんだけど、皆が理人の可愛さに気づきそうで嫌だ」

 僕といる時の先輩はこうやってよく拗ねる。

 そういうキャラクターを演じているのだと分かっていても、嫉妬や独占欲混じりの言葉を向けられると、単純な僕は自分が愛されているような気がしてきゅんとしてしまう。

 ――束縛はそんなに好きじゃないと思ってたけど、先輩にされるのは全然嫌じゃない。むしろ嬉しい。

「琉偉先輩おはようございます〜」

 通りすがりの女子軍団が、先輩に挨拶をしていく。
 先輩が爽やかな笑顔で「おはよう」と返すと、黄色い歓声が上がった。

 そこで僕は「どんな反応が返ってくるのだろう?」とドキドキしながら、初めて不満を述べてみる。

「僕だって、先輩がモテるの嫌です。先輩、皆に優しいから」

 先輩は一瞬動きを止め、目を大きく見開いた。
 それから人目も憚らず、僕をぎゅっと抱き寄せる。

「何それ可愛い。俺が好きなのは理人だけから安心して」

 ――うわー!!!! 何これ!! 何て少女漫画!?

 甘い台詞と優しい抱擁のダブルパンチに、全身が沸騰しそうになる。

「先輩……」
「どうした?」

 腕から逃れるついでに見上げると、先輩は蕩けそうなほど優しい視線を僕に向けていた。

 ――嬉しい。でも、これっていつまで続くんだろう。

 ふと我に返る。

 ――秋の文化祭まで? それとも先輩が役作りに満足するまで? 

 嫌だ。ずっと続いてほしい。
 そう思った瞬間、幸せだったはずの時間に虚しさが押し寄せる。

「なんでもないです。そろそろ行かないと、遅刻しちゃいますよ」

 僕は笑って誤魔化した。

 学校に着くまでの間に、先輩は「日曜に映画でも行く?」と誘ってくれたが、心の靄は晴れないままだ。

 次のデートを楽しみにしていたはずなのに、僕は少し悩んでから返事をする。

「今週末はちょっと……作業に集中したくて」
「そっか。了解、頑張って」

 先輩はそれ以上追求してくることはなく、僕は余計に虚しい気持ちになってしまった。自分から断った癖に、最低だ。