「亜弓に見られたなんて、びっくりしました。桐谷さん、大丈夫ですか?」
昼休み、会社にいたくなくて近くの喫茶店に逃げ込んだ。ミーティングのときの桐谷さんの静かに真っ直ぐ資料を見つめている視線が、頭から離れない。LINEを送ってみても、既読にすらならない。
イベントとか、それこそ飲食店とか、知り合いに見られる可能性があるのかあ。
「別に見られても、いいけど…」
独り言をつぶやき、季節限定のお芋とミントの芋ミントチョコドリンクを啜る。
私はいいけど、桐谷さんは会社とタイミーとでキャラかなり変えてるし、あんまり見られたくないだろうな。私にも「会社には言うな」って言ってたし。あの場は誤魔化せたけど、亜弓の性格を考えると何かたくらむ可能性もある。
案の定、SlackのDMで亜弓からメッセージが送られてきた。「朝言った件、本当に桐谷さんだったんだから」という文字列と、カフェの窓越しに撮られたらしい、あの現場の写真が添付されていた。
たくさんの人が忙しそうに働いている。遠目だし人の顔はよくわからないが、ピンチアウトしてみれば、確かにあの時の桐谷さんが映っている。私はあの時の桐谷さんの服装や髪型を知っているから分かるが、ほかの人ならどうだろう。
「ここ、いい?」
そんなことを考えていると、突然声をかけられた。
「はい? あー、えーと……」
顔を上げると、ボブカットのシンプルだけど華やかな雰囲気の女性だった。見覚えがある、たぶん会社の人だと思うけど。誰だっけ。
「広報の松川です。マーケの花岡さんよね?」
「あ~、松川さん。どうしましたか?」
へらっと笑顔を作る。松川さんは、真っ黒なアイスコーヒーをテーブルに置いて私の向かいの席に腰かけた。
「花岡さんって亜弓ちゃんと仲いいよね? 彼女、ちょっと騒いでたよ」
「あ~……」
SlackのDMや写真、もしかするとわたし以外の社員にも送って回っていたのかもしれない。亜弓のやりそうなことだ。
「あれですよね。桐谷さんに似てる人がイベントバイトしてたみたいな。私も見ましたけど、人違いですよ」
笑顔でパタパタと手を振ってみせる。
「そうかもね、桐谷さん本人にも聞いてみたけど、知らないって言われちゃった」
桐谷さんに直接聞くなんて、松川さんは結構強キャラなのかもしれない。
「それはそれとして、写真の端に映っている、ピンクのタオルをかけた子。これ、あなたじゃない?」
「へ?」
松川さんはスマホの画面をこちらに向けてくる。亜弓から送られてきた写真の端っこに、ピンクのタオルを首にかけ、両手にパイプ椅子を持っている私の姿が映り込んでいた。
「あ、こ、これは……!」
桐谷さんばかり探していて、全然気が付かなかった。というか普通気付かないよ、こんなの。誤魔化した方がいいのか考えているその間こそが、まさに肯定となってしまったようで、
「やっぱり。今度ね、社内報で社員の副業事情についてっていうコーナーを作る予定なの。そこで花岡さんの話を聴けたらなって思うんだけど、どうかな?」
私は、こういう時に断ることが苦手だ。嫌われたりしたくないというか、波風を立てたくないと考えてしまう。だからか、自分の口から出てきた言葉は、自分で考えたよりもとても軽かった。
「ぜんぜん大丈夫ですよ!」
「よかった、じゃあ明日ちょっとだけ時間くれる? スケジュールと会議室はこっちで取っておくから」
松川さんは有無を言わさぬ様子でそう言うと、飲みかけのアイスコーヒーを手に取り席を立ってしまった。
あ……、これ、大丈夫かな。桐谷さんの話はしないし、大丈夫か、きっと。
昼休み、会社にいたくなくて近くの喫茶店に逃げ込んだ。ミーティングのときの桐谷さんの静かに真っ直ぐ資料を見つめている視線が、頭から離れない。LINEを送ってみても、既読にすらならない。
イベントとか、それこそ飲食店とか、知り合いに見られる可能性があるのかあ。
「別に見られても、いいけど…」
独り言をつぶやき、季節限定のお芋とミントの芋ミントチョコドリンクを啜る。
私はいいけど、桐谷さんは会社とタイミーとでキャラかなり変えてるし、あんまり見られたくないだろうな。私にも「会社には言うな」って言ってたし。あの場は誤魔化せたけど、亜弓の性格を考えると何かたくらむ可能性もある。
案の定、SlackのDMで亜弓からメッセージが送られてきた。「朝言った件、本当に桐谷さんだったんだから」という文字列と、カフェの窓越しに撮られたらしい、あの現場の写真が添付されていた。
たくさんの人が忙しそうに働いている。遠目だし人の顔はよくわからないが、ピンチアウトしてみれば、確かにあの時の桐谷さんが映っている。私はあの時の桐谷さんの服装や髪型を知っているから分かるが、ほかの人ならどうだろう。
「ここ、いい?」
そんなことを考えていると、突然声をかけられた。
「はい? あー、えーと……」
顔を上げると、ボブカットのシンプルだけど華やかな雰囲気の女性だった。見覚えがある、たぶん会社の人だと思うけど。誰だっけ。
「広報の松川です。マーケの花岡さんよね?」
「あ~、松川さん。どうしましたか?」
へらっと笑顔を作る。松川さんは、真っ黒なアイスコーヒーをテーブルに置いて私の向かいの席に腰かけた。
「花岡さんって亜弓ちゃんと仲いいよね? 彼女、ちょっと騒いでたよ」
「あ~……」
SlackのDMや写真、もしかするとわたし以外の社員にも送って回っていたのかもしれない。亜弓のやりそうなことだ。
「あれですよね。桐谷さんに似てる人がイベントバイトしてたみたいな。私も見ましたけど、人違いですよ」
笑顔でパタパタと手を振ってみせる。
「そうかもね、桐谷さん本人にも聞いてみたけど、知らないって言われちゃった」
桐谷さんに直接聞くなんて、松川さんは結構強キャラなのかもしれない。
「それはそれとして、写真の端に映っている、ピンクのタオルをかけた子。これ、あなたじゃない?」
「へ?」
松川さんはスマホの画面をこちらに向けてくる。亜弓から送られてきた写真の端っこに、ピンクのタオルを首にかけ、両手にパイプ椅子を持っている私の姿が映り込んでいた。
「あ、こ、これは……!」
桐谷さんばかり探していて、全然気が付かなかった。というか普通気付かないよ、こんなの。誤魔化した方がいいのか考えているその間こそが、まさに肯定となってしまったようで、
「やっぱり。今度ね、社内報で社員の副業事情についてっていうコーナーを作る予定なの。そこで花岡さんの話を聴けたらなって思うんだけど、どうかな?」
私は、こういう時に断ることが苦手だ。嫌われたりしたくないというか、波風を立てたくないと考えてしまう。だからか、自分の口から出てきた言葉は、自分で考えたよりもとても軽かった。
「ぜんぜん大丈夫ですよ!」
「よかった、じゃあ明日ちょっとだけ時間くれる? スケジュールと会議室はこっちで取っておくから」
松川さんは有無を言わさぬ様子でそう言うと、飲みかけのアイスコーヒーを手に取り席を立ってしまった。
あ……、これ、大丈夫かな。桐谷さんの話はしないし、大丈夫か、きっと。



