隙間(スキマ)の桐谷さんは笑わない

 何はなくとも月曜日はやってくる。今週のミーティングは大きな議題もなく、あっさりとアジェンダが消化された。
 部長が伸びをしながら言う。

「まだ時間あるし、久々に雑談の時間にしようか。みんな週末どうだった?」

 週末かあ。タイミーして、それ以外は家で推しのドラマを見て、YouTubeを見ていたら終わったな。なんてぼんやりしていると、亜弓が手を挙げた。

「私、外苑前でカフェ行ったんですけど、すっごい偶然あって!」

「またマチアプのデート?」

「違いますよ~! その帰りに、なんかイベントの設営してる現場があって――そこで桐谷さんっぽい人見たんですよ」

 私は、ペンを握ったまま一瞬固まった。
 桐谷さんは、手元の資料を見つめたまま、特に反応もしない。

「ただの他人の空似じゃないのか?」

 部長が笑いながら言うと、亜弓はやけにむきになって、

「えー! 絶対桐谷さんでしたよ! でも会社とは全然雰囲気ちがって、アクティブというか、ポジティブというか、すっごい爽やかな感じでしたよー。あれ、ボランティアですか? それともスキマバイトとか?」

 ……。
 桐谷さんは無言のままだ。ひやひやして、どうにかこの空気を変えられないかと頭をひねるが、会話は桐谷さんと私を無視して進んでいく。

「スキマバイトって、うちの会社って副業OKでしたっけ?」

「公序良俗に反しなければ大丈夫だぞ」

「いやーでも桐谷さんが副業とかするイメージないなあ」

「俺ちょっと気になってるんだよね。結構楽しいらしいじゃん」「楽しいですか? 休日まで働きたくないよ」「知り合いが居酒屋経営してるけど、タイミーで来るバイトの質けっこうヤバいらしいですよ」「居酒屋はなあ」「わたし、学生時代居酒屋バイトしてたんですけど…」

 黙って会話の流れを見守っていると、あっという間に桐谷さんの話は消えていった。
 雑談は、本当に何の意味もない、明日には忘れてしまうような無味乾燥な話に変わっていく。