隙間(スキマ)の桐谷さんは笑わない

 休憩室の電子レンジが唸り声を上げている。私はカップスープの粉を混ぜながら、スマホをテーブルに立てていた。最近ランチはサンドイッチとカップスープばかりだ。スープを混ぜ終わると、タイミーのアプリを開いて、「今週土曜」「都内」で検索する。
 ……なにか、ちょうどいいバイトないかな。この前の仕分け、案外楽しかった。あの後からずっと、体が妙に軽い。

「ちょっと、なに見てんの?」

 突然、隣から覗き込まれてスマホを隠す。同期の亜弓だった。小柄でメイクが濃くて、人懐っこいというか、けっこうグイグイくるタイプの子だ。同期だけど、年齢は私よりひとつ上のはず。

「うわ、びっくりした! 別に何も見てないよ」

「いやいや、思いっきり“タイミー”って出てるじゃん」

「あ~~……」

 私は誤魔化すようにへへっと笑って頭を掻いて見せた。

「花岡、タイミーやってんの? 金欠?」

「まあ金欠ではあるよね。推しの公演のチケットがうっかりご用意されちゃって。しかも関西公演」

「あ~ね、嬉しいけど金は生えてこないもんね~! てかさ聞いてよ花岡~」

 あっという間に自分の話を始めた亜弓に頷きながら、カップスープを啜る。別に副業禁止なわけじゃないから、バレてもいいんだけど。なんとなく、まだ言いたくないような気がした。というか、私のはなしに興味もないだろう。会社の中の人付き合いって、この年になってもよくわからない。
 亜弓の話を半分流しながら、ちらりと視線を上げる。少し離れた席に桐谷さんがいた。いつものサラダランチ。相変わらず、姿勢が綺麗すぎる。目が合った――気がして、慌てて逸らす。……見てた? いや、見てない。たぶん。

「ねえ、花岡。聞いてる?」

「あ~~、聞いてるよ聞いてる。マチアプの男のはなしでしょ?」

「違うし! 全然聞いてないじゃん~!」

 亜弓の機嫌を取っているうちに、桐谷さんはいつの間にか休憩室から消えていた。