その日を境に、澪は会社に来なくなった。
「桐谷さんはしばらくお休み」とだけ、部長がSlackに書いた。
メッセージには「了解です」みたいなスタンプがいくつかついたけれど、誰もコメントはしなかった。
家に帰っても、胸の奥がざわついていた。
机の上に置いたスマホを何度も見つめた。なにかLINEを送ろうか。でも、最後のメッセージの「既読」が、冷たく私を見つめてきた。
「社内報の取材なんか受けてごめんなさい」
いや、なんか違うな。書きかけたメッセージを消す。
「お休み何されてるんですか?」違う。「また話せませんか?」こうじゃない。「今週末どこかのバイトはいりますか?」今これじゃないだろ、私。「ご飯食べてますか?」母親か。「桐谷さん、会いたいです」だめだ、消そう。
送れそうな言葉が、ひとつも残らなかった。
どうしていいかわからずに、手持無沙汰にタイミーのアプリを開くと、「イベント設営スタッフ募集」の一覧に見覚えのある地名があった。
外苑前。ああ、あの会社がまた求人出してるのか。
なんとなく――ぼんやりと後ろ姿が頭の中に浮かび上がる。黒い髪ををまとめる指先の形。胸が、ぎゅっと掴まれた。
タイミーのアプリを閉じて、このまま寝ようと布団にもぐりこんだ。
もぐりこんだのはいいものの、全然眠気は来なかった。推しの動画を見る気分にもなれない。無為に動画サイトを眺めるのも気が進まない。仕方ない、こういうときは労働に限る。タイミーでも見るかとアプリを開いた。
イベント設営、倉庫の仕分け、どれもやる気が出ない。
スクロールしていくうちに、「間借りカフェのオープン準備スタッフ募集」という文字が目に留まった。
「本と小道具のカフェ」。説明文にはそう書いてあった。店名は「灯影(ほかげ)」。写真には、まだ片づいていない棚と、古びた照明スタンド。
いいな、楽しそう。カフェスタッフもやってみたかったけれど、接客業ができるメンタルじゃないし、かといってこれまでの軽作業もやりたくない。オープン前の作業なんて、かなりレアなんじゃないだろうか。
なんとなく、呼ばれているような気がした。
気づけば「応募する」を押していた。
「桐谷さんはしばらくお休み」とだけ、部長がSlackに書いた。
メッセージには「了解です」みたいなスタンプがいくつかついたけれど、誰もコメントはしなかった。
家に帰っても、胸の奥がざわついていた。
机の上に置いたスマホを何度も見つめた。なにかLINEを送ろうか。でも、最後のメッセージの「既読」が、冷たく私を見つめてきた。
「社内報の取材なんか受けてごめんなさい」
いや、なんか違うな。書きかけたメッセージを消す。
「お休み何されてるんですか?」違う。「また話せませんか?」こうじゃない。「今週末どこかのバイトはいりますか?」今これじゃないだろ、私。「ご飯食べてますか?」母親か。「桐谷さん、会いたいです」だめだ、消そう。
送れそうな言葉が、ひとつも残らなかった。
どうしていいかわからずに、手持無沙汰にタイミーのアプリを開くと、「イベント設営スタッフ募集」の一覧に見覚えのある地名があった。
外苑前。ああ、あの会社がまた求人出してるのか。
なんとなく――ぼんやりと後ろ姿が頭の中に浮かび上がる。黒い髪ををまとめる指先の形。胸が、ぎゅっと掴まれた。
タイミーのアプリを閉じて、このまま寝ようと布団にもぐりこんだ。
もぐりこんだのはいいものの、全然眠気は来なかった。推しの動画を見る気分にもなれない。無為に動画サイトを眺めるのも気が進まない。仕方ない、こういうときは労働に限る。タイミーでも見るかとアプリを開いた。
イベント設営、倉庫の仕分け、どれもやる気が出ない。
スクロールしていくうちに、「間借りカフェのオープン準備スタッフ募集」という文字が目に留まった。
「本と小道具のカフェ」。説明文にはそう書いてあった。店名は「灯影(ほかげ)」。写真には、まだ片づいていない棚と、古びた照明スタンド。
いいな、楽しそう。カフェスタッフもやってみたかったけれど、接客業ができるメンタルじゃないし、かといってこれまでの軽作業もやりたくない。オープン前の作業なんて、かなりレアなんじゃないだろうか。
なんとなく、呼ばれているような気がした。
気づけば「応募する」を押していた。



