隙間(スキマ)の桐谷さんは笑わない

 社内報の取材なんて、受けなきゃよかった。会議室の机に置かれたICレコーダーを見ながら、すっかり後悔していた。
 松川さんが「気軽にでいいからね」と笑うたびに、緊張ではなく、別の感情が込み上げてくる。恥ずかしさというか、むずがゆさというか。自分のことを“前向きに”語るのが、こんなにきついとは思わなかった。
 どうして、あのとき「無理です」って言えなかったんだろう。「断ると角が立つかな」とか、「少しでもいい人に見られたい」とか、そういう浅い打算が透けて見える。
 こんな自分が、いちばん嫌いだ。


「副業を始めたきっかけは?」

「えっと、そうですね。自分の世界を広げたくて、ですかね」

 口から出た瞬間に、自分でも軽いと思った。本当は、ただ推しの舞台が連続で当たって、金欠になっただけだ。

「すごく前向きですね。どんなお仕事をされてるんですか?」

「え、あ、いろいろ……、イベントの設営とか、軽作業とかです」

 話しながら、澪の顔が浮かんだ。こうして私がまた副業のはなしを蒸し返すことで、迷惑がかかったりしないだろうか。
 昨日の昼に送ったLINEは、既読になったきりだった。怖くて、それ以上は何も送れなかった。