月の裏側に行ってみたい。season2




俺たちは、

初めて、

――恋人のキスをした。




まだ冷めやらぬ熱を抱えて、
二人で丘に座っている。


「――朔、
 いつもあんな美味い飯
 食ってんの?」

「まぁな。
 うちのご飯、男前だろ?」

クッと笑う。



「美味しかった。


 ――また、
 食べに行ってもいいかな。」

然が
遠慮がちに微笑む。



「いつでもどうぞ。」

然の髪を
くしゃっと撫でる。



「送ってこなくても
 良かったんだぞ?

 明日も学校あるんだからな。」

然は
相変わらず
つんっとしてる。


俺も
ぶっきらぼうに返す。

「何言ってんだか。
 いつもこの時間より遅いのに。」



いつも通りの会話に、
ぎこちなさを感じるのは、
気のせいだろうか。




気のせいじゃない。

なんだか
俺たち、夢見心地なんだ。



「――でも、
 朔との時間が増えるから、

 ありがとうって
 言っとこうかな。」


ほら。
こんな言葉が
然の口から
こぼれ落ちたりする。



大きな月が、

俺たちを飲み込みそうだ。



「――然。」

「なに。」



「月が綺麗だな。」



この言葉、

今日、伝えようって決めてた。



然は気づくだろうか。


いや――
俺のこのセンスには

気づくまい。


そうであってこその台詞だ。




然がクスッと笑う。

「そうだな。
 明日の十五夜は一緒に見ような。」


「え?明日?」


「今日は十四夜だよ。
 お前、詰めが甘いな。」


うっわ!
恥ずかしい!

漱石先生、
台無しにしてごめんなさい。


然が俺の肩に手を置く。
その手に体重を預けて、

俺の顔を覗き込む。


「朔、大好きだ。

 今日も、明日も、明後日も、

 どんな月も、

 ――お前と見たい。」


言葉が出てこない。




気づいたら、

抱きしめていた。




シャツ越しに伝わる、

然の温もり。


然が呼吸する度、
俺の腕の中で
その温もりが小さく動く。

柔らかな髪が
俺の頬に触れて

くすぐったい。



然の温度が、

香りが、

呼吸のリズムが、



――俺を酔わせる。




体が熱い。

汗なんかかいてないのに。

ひたすら熱いんだ。



俺の中から
グングンと湧き上がる熱。


俺には扱いきれない。
どうしたらいい?


このまま任せるのか?


――違う。


前みたいに、

俺は、
間違えたくない。


ググッ……
然の身体を
ゆっくりと離す。

くっついてるのを
引き剥がすように。


「はぁっ……はぁっ……
 
 ふーっ……。」


実際、しんどい。


俯いて呼吸を整える。

手の甲で、頬を拭う。


その手を然がつかむ。


しっとりとした然の指。

冷たくも温かくもない。
同じ体温……

それが
俺の皮膚に、
直に伝わってくる。


「然!ダメだ。

 今は俺に触るな!」


咄嗟に声を荒らげる。


その手を
そっと……振りほどく。


行き場を失った指先――

持て余すように、

然の瞳が
スルッと
俺を駆け上がる。

挑発的な目線。

「――なんで?」



「なんでって……。」

お互いの瞳が

絡み合い、

反発し合う。



近づく然の肩を
手のひらで止める。

押し返す。

「……とにかくダメだ。」



「――なんで?」



「……なんでも!」



「なんで?」



どうして分かってくれない?

俺、ギリギリのところで
すごく耐えてるんだ。



「なぁ、朔、なんで?」


「あーもう!
 俺が暴走するからだろ!
 分かんねぇかな!?」



「暴走してくれよ。」


掠れたような然の声。

初めて聞く、
切ないトーンだ。


「なんだよ……その声……」


「いつも通りだよ。」


嘘だ。

俺に触れてくれって、

その声が
切なく叫んでる。


フッ……
何かが切れた音がした。


然の頬と顎に、
両手を添える。

親指で
然の唇をなぞる。

「……さっき、
 初めてキスしたばっかだぞ。」



「そうだね。」



その唇を開くように、
指先を滑らせる。

「……急ぎすぎだって。」



「そうだね。」

クッ。
顎に掛けている指に
力を入れる。

然の口が、少し開く。

「……いつでも膝蹴りしていい。」


然は笑わなかった。

逃げもしなかった。


ただ、
俺の目を見たまま、

小さく頷いた。



唇を重ねる。


さっきより深く。


でも、
壊さないように。


確かめるように。


然の指が、
俺のシャツを掴む。


然の背中に腕を回し、

もう一度、
強く引き寄せる。


月が
俺たちの肩を、
青白く照らす――


然の手は
俺のシャツを離さない。

俺も、
然の背中を離せない。



俺たちは、

ずっと、

こんな風に

お互いの温度を
感じたかったんだ。



あの、雨の日が懐かしい。


この感情が何なのか
まだ分かってなかった

――あの日。




この丘で、


月の裏側が見たいって
話したっけ。


掴み合いもしたな。




いつだって
――俺たちは全力だった。


然の耳元で囁く。

「あとで、
 ホットココア買いに行こう。」



―――――



丘の上で
並んで寝転ぶ。


迫るような月を見ながら

深く息を吸う。



芝の香りが心地いい。




「月の裏側なんて、
 ないんじゃないかな。」


「確かにそうかも。」


「だって、
 月にしてみたら、
 表も裏もないんだから。」


「言えてる。」





二人で見上げる月は、



今日も綺麗だ――。




―――――


月の裏側に行ってみたい。
完結です。

ここまでお付き合い頂いて
本当にありがとうございます。

完結できて良かった😭💦


アフターストーリーなどのリクエストはありますでしょうか?
もしあったら書いてみたいなぁ……なんて、ふと思ったり。

さて、朔と然のクラスメイト『快』。
彼は、処女作である『朝顔の瞬き』の
主人公であり、私にとって、思い入れ深いキャラでもあります。
その『朝顔の瞬き』を加筆修正した、
完全版を公開しています😊

もしよかったら、『朝顔の瞬き』にも、
ぜひお立ち寄りくださいね😉

今後も、どうぞよろしくお願いします。

―WhoCROW―