月の裏側に行ってみたい。season2




――あの裏側には何があるのか。


俺は今から、

勇気を出して、

ほんの少しだけ、



“それ”を

朔に、見せるんだ。


「――朔。」

目線を朔に投げる。

ストン、と。
ぶれることなく。




「お前が思うほど、
 俺の揺らぎは――甘くない。」



俺と朔。
2人の間の時間が
少しだけ止まったような。


そんな静けさ――


朔の喉が
ごくんと動く。

瞬きもせずに
俺の目だけを見据えている。


さて、どうする?――朔。


俺は、
ここだけは、

どうしても譲れないんだ。


鼻から、

ゆっくりと

星空も

芝生の香りも

すうっと吸い込む。


頭の中が
すごくクリアだ。

「――朔、知ってるか?

 俺は“揺らぎ”って呼んでるけど、

 社会的には、

 語尾が“障害”で終わる

 ご立派な名前で一括りだ。」


「……障害?」


「ふん……月に1回は
 メンクリに行くんだぜ?
 小学生の頃からずっとだ。

 ――意味、分かってるか?」


「……そんな小さな頃から?
 
 意味……とは?」


今夜は夜空が

“見える日”だ。


朔の低い声も
俺の耳によく届く。

俺の言葉も、
透明度を保ったまま、

お前の中に
降ってほしい――。


「初めて診断が下った時、

 俺は、
 理由が分かってホッとした。
 
 だけど、
 親は、泣いたんだ。

 お前も、親泣かせるのか?」




朔の瞳が、
静かに俺を見ている。

口元が微かに動く。

何か言いたげに。



だけど、



出てくる言葉は、



なさそうだ。



――困らせてごめんな。



避けては通れないんだ。



お前は……

その大変さを、
知らないだろうから。



―――――



然の眼差しが刺さる。

然の淡々とした声が
俺の心を

突き抜ける――。



痛い……。

強烈に、痛い。



自然と、
呼吸が浅く短くなる。


こんな痛み、

然には

悟られたくない。



「……然。」

「なに。」


「一旦、
 持ち帰らせてください!」

深々と頭を下げる。


今すぐ返事するのは
違うと思うんだ。

俺はちゃんと
冷静に向き合いたい。


「……そう来たか。」
然の声が震えている。


すすり泣くような声が、

下げた頭に当たっては、

芝生に散らばっていく。


俺、今、
お前を泣かせてるのかな……





――でも、なんか変だ。



そっと、

目線を上げる。


そこには、
俺に背中を向けて
肩を震わせている然がいた。

「――え。……然?」

然が、
指先でまつ毛を拭いながら
振り返る。

「朔らしく在りすぎだろ!
 なんだよそれ、
 持ち帰らせてって。」


えーーー!!

笑ってる!?


目が飛び出るって
きっと、
こういう時に使うんだ。

「笑うところ、どこにあった!?」

どこから出てるか分からない声に、
自分でうんざりする。



然が、

大きく一歩、

俺に近づく。



「朔!――俺、お前が好きだ。」


「ちょっと待て。
 この流れでその着地?

 心底、分からない。

 いっ……今のは、

 聞かなかったことにしたい。」


然が声を立てて笑う。

「そういうとこだよ!」


「ヤバい、分からない。
 もし夢なら起こして欲しい。

 大事な瞬間なんだ。

 頼む。」


また、然が笑った。



―――――


然は心の中で

月を見ていた。



静かに、
少しうわずった声で
語りかける。


夜空に?

月に?

それとも朔に?


お前は、
俺をまっすぐ見て

“持ち帰らせて”

って言った。


その場で、
その場しのぎで、
俺のこと
語ったりしない奴なんだ。


それは分かってた。


――だから、言えたんだ。


けどさ、

けど、

まさか、
テイクアウトするとは、ね。

俺は大好きだ。

――こんなお前が。