hugme 蛍光ピンクの蝶

  私の顔に似た壁の絵をこっそりスマートフォンで写真を撮り、誰にも見つからないように隠しフォルダの奥にしまい込む。クラスメイトたちが、たわいないメッセージのやり取りを両親たちに見つからないようにする方法として、いつか話していた。
  悪いことをしている、そんな気がした。
  悪いことの度合いで言えば、知らない女の子――下の子の描いた絵を写真に撮るよりも、夜中に家を抜け出し特区の外れに行ったことの方が、よっぽど「悪いこと」だろう。だけど私は、それよりもこの絵が誰かに見られることの方が恐ろしかった。

  家に着いたとき、空の端はすでに明るみを帯びていて、夜の時間は終わりを告げようとしていた。開けっ放しの裏口をそっと開ける。
  しんとした室内。それで油断していたのかもしれない。

「ミユリちゃん」

  産みの母、シホお母さんの声だった。思わずビクッと身体が固まる。

「どこに行ってたの」

  彼女の声は、怒っている風には聞こえなかった。でも、産みの母がそうでも、そのほかの「両親」たちも怒らないなんてことはないだろう。ああ、面倒なことになってしまった。

「眠れなくて、庭にいただけ……」

  そんなウソ、通じるわけがないとわかっている。ちらりとシホお母さんの顔を見ると、彼女は眉尻を下げ、私をじっと見つめていた。

「そう。まだ起きる時間には早いから、寝なさい。出資者の……ほかのお父さん、お母さんには言わないから」

「え……」

「おやすみなさい」

  そう言い残し、彼女は自分の寝室へと静かに戻っていった。短い、たったこれだけの会話なのに、なんだかすごく久しぶりにお母さんと話をしたような気がした。