「育み協力者制度」――通称子ども出資制度。口の悪い人たちは、子ども投資だの、人間株式だのと呼ぶ。「育み協力者制度」が始まったのは、いまから四十年ほど前。ちょうど私が生まれた頃だ。
上がり続ける物価と子育てコスト、進み続ける少子高齢化と崩壊しかけた年金制度。それらを解消するためにつくられたのが、hugmeというサービスだ。最初は出産クラウドファンディングのような仕組みだったと聞く。それがいつの間にか、今のかたちになった。
制度の骨子は単純だ。子どもの成長に対し、出資者が金銭的支援を行う。その見返りとして、進学や就職で子どもが成果をあげれば、出資額に応じて報奨金が支払われる。
どの子どもに出資をするかは、両親の情報から選ぶのが基本だ。そして子どもが生まれてからも立派な――稼げる大人になるために、子どもの生活や教育の一部がオンラインで「共有」され、出資した金額によっては子どもや産みの親たちとコミュニケーションできる権利を得る。
優秀な子どもに出資する。そして子どもの将来の成長からリターンを得る。そうして老後の資金を得ている者も多い。
修正を依頼されたテキストが目を滑り出す。いつの間にかミユリたちの体育の授業配信も終わっていた。
少し休憩しよう。hugmeのウェブページにアクセスし、ミユリの情報に飛ぶ。何千回と見た情報だ。
―――――――――――
登録名:苅真ミユリ(Karima Miyuri)
出資受付:hugme 認証第20XX-BS03812号
Nスコア:86.4(文学系適性:S / 想像力:B / 発信力:A)
将来想定職種:作家・編集者・文化系研究職(配当見込み 17.2%)
コメント:苅真シホ&苅真レンジから生まれる未来の言葉たち。
あなたの"はぐくみ"を、ミユリに。
―――――――――――
ミユリは決して人気のある投資対象ではない。文学という適性は、どうしてもリターンが期待できる分野ではないのだ。ビジネスや芸能、スポーツといった世界からの遺伝子を持つ子どもには、何千人もの「両親」がついている。
それでも、私はミユリから目が離せない。
hugmeにはミユリの健康データや学校の成績、そして彼女から提出された様々なコンテンツが掲載されている。その中から、私は「蝶」とタイトルが付けられたページにアクセスをする。
蝶 苅真ミユリ
羽ばたきは 音ではなく
光を震わせるしるしだった
どこまで行けるのだろう
空はひらかれているのに
わたしの影は地面に縫いつけられている
ひとすじの風に溶けて
色を失った翅は
まだ わたしのものだろうか
名前のない声が
胸の奥でふるえている
それを呼ぶたび
わたしは蝶になりそこねる
二年前、十三歳のときにミユリが作った詩だ。彼女の作ったものはすべてに目を通しているが、この詩が一番身体に沁み込んでくる。
彼女なら、私にはたどり着けなかった世界に、きっと行ける。
上がり続ける物価と子育てコスト、進み続ける少子高齢化と崩壊しかけた年金制度。それらを解消するためにつくられたのが、hugmeというサービスだ。最初は出産クラウドファンディングのような仕組みだったと聞く。それがいつの間にか、今のかたちになった。
制度の骨子は単純だ。子どもの成長に対し、出資者が金銭的支援を行う。その見返りとして、進学や就職で子どもが成果をあげれば、出資額に応じて報奨金が支払われる。
どの子どもに出資をするかは、両親の情報から選ぶのが基本だ。そして子どもが生まれてからも立派な――稼げる大人になるために、子どもの生活や教育の一部がオンラインで「共有」され、出資した金額によっては子どもや産みの親たちとコミュニケーションできる権利を得る。
優秀な子どもに出資する。そして子どもの将来の成長からリターンを得る。そうして老後の資金を得ている者も多い。
修正を依頼されたテキストが目を滑り出す。いつの間にかミユリたちの体育の授業配信も終わっていた。
少し休憩しよう。hugmeのウェブページにアクセスし、ミユリの情報に飛ぶ。何千回と見た情報だ。
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登録名:苅真ミユリ(Karima Miyuri)
出資受付:hugme 認証第20XX-BS03812号
Nスコア:86.4(文学系適性:S / 想像力:B / 発信力:A)
将来想定職種:作家・編集者・文化系研究職(配当見込み 17.2%)
コメント:苅真シホ&苅真レンジから生まれる未来の言葉たち。
あなたの"はぐくみ"を、ミユリに。
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ミユリは決して人気のある投資対象ではない。文学という適性は、どうしてもリターンが期待できる分野ではないのだ。ビジネスや芸能、スポーツといった世界からの遺伝子を持つ子どもには、何千人もの「両親」がついている。
それでも、私はミユリから目が離せない。
hugmeにはミユリの健康データや学校の成績、そして彼女から提出された様々なコンテンツが掲載されている。その中から、私は「蝶」とタイトルが付けられたページにアクセスをする。
蝶 苅真ミユリ
羽ばたきは 音ではなく
光を震わせるしるしだった
どこまで行けるのだろう
空はひらかれているのに
わたしの影は地面に縫いつけられている
ひとすじの風に溶けて
色を失った翅は
まだ わたしのものだろうか
名前のない声が
胸の奥でふるえている
それを呼ぶたび
わたしは蝶になりそこねる
二年前、十三歳のときにミユリが作った詩だ。彼女の作ったものはすべてに目を通しているが、この詩が一番身体に沁み込んでくる。
彼女なら、私にはたどり着けなかった世界に、きっと行ける。



