hugme 蛍光ピンクの蝶

*****

  やってしまった。朗読動画を作品としてhugmeにアップロードしてしまった。

  夜ごとにあの廃駅で、エマの隣で作った言葉を、そして声に出した言葉を、彼女に言われるままに動画に撮ってみた。その動画が、想像していた以上に自分で気に入ってしまって、ついそのままhugmeにアップロードしてしまったのだ。
  些細な宿題や短い日記でさえ、あそこにアップロードするときはドキドキして、これでいいのか心配になるのに、どういうわけかあの動画は――見てほしい、アップロードしたい、と、心の底から思った。

  思ったけれど、本当によかったのだろうか。
  ただの深夜の勢いだったのかもしれない。
  けれど、やってしまったものは仕方ない。

  布団からのそのそと起き出し、顔を洗って制服に着替える。今日も「両親」たちに朝の挨拶をしなければならない。
  デスクの前に座り、パソコンを起動すると、既に通知の赤い数字が異様に膨らんでいた。
  心臓がどきりと跳ねる。
  まだ「両親」たちと顔を合わせる前なのに、すでに彼らは動いている。夜のうちに動画を見て、何かを感じ、何かを言いたがっている。

  ――どうしよう。

  カメラの赤いランプが点り、ライブ配信が始まった。壁いっぱいに分割された画面に、無数の「お父さん」「お母さん」が並ぶ。ちらりと入場者数を見れば、今日は二百五十人以上の「両親」が見に来ている。多い、いつもよりも圧倒的に多い。
  朝の挨拶は、ただの儀式。けれど今日は、空気が違っていた。

「おはようございます、ミユリです」

  声が少しだけ震えていた。私の声に、「お父さん」たちも「お母さん」たちも一瞬静かになる。そして、次の瞬間、画面の向こうがざわめきだした。
  メッセージがぽんぽんと届く。

「見たわよ、あの朗読!」「素敵だったわ!」「新しい表現だ。実験的でいいと思う」「でも、投資の方向性としては……」

 称賛と不安と打算がごちゃ混ぜになって、文字が画面の端から端まで弾ける。
 最近はメッセージをくれるほど熱心な「お父さん」も「お母さん」もいなかった。こんなに賑やかな朝の挨拶会は久しぶりだ。

「あの、私……見てくれて、ありがとうございます。今日の学校は座学の授業ばかりなので……」

  「両親」たちの笑顔に、自然と顔がほころぶ。メッセージを送れない「両親」たちも、多くは笑顔でわたしを見守ってくれていた。そのなかで、一人だけ異様に静かな視線があった。
  画面の端、眼鏡をかけた痩せた女。
  何日か前の朝にメッセージをくれた「お母さん」。私が一年近く作品を公開しなかった間も、誰よりも私に期待をかけてくれた「お母さん」。名前は、灰吹カレン。
  カレンお母さんは声を発さず、ただ食い入るように私を見つめていた。

  その沈黙が、なにより重かった。